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夏の終わり、恋の始まり。

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夕方になると日が陰り、暑かった部屋の中でも風を感じるようになってきた頃。
開け放された縁側に座っていた本田とナターリヤは風鈴の鳴る音を聞きながら、まったりと麦茶を飲んでいた。カラン、と涼しげな音がして、冷えたグラスの中で氷が揺れる。
サア、と吹いた風は木々を一度だけざわめかせ、風鈴をちりりん、と鳴らした。
「もう、随分日が短くなりましたねー・・・。」
6月に当に過ぎ去った夏至から、もう2ヵ月が経っていた。一番日が長い時期から考えれば、日が短くなったと考えるのも普通である。夏ももう終わりだな、と思いながら本田が独り言のように言うと、ナターリヤはその言葉を聞いていたのかいないのか、興味がないような顔つきで、傍にあったグラスを掴んでごくごくと冷えた麦茶で喉を潤した。
ナターリヤがここにいる理由を、本田は知らなかった。いつものように突然やってきて、気付いたら縁側でぽちくんを撫でている。本田はもうナターリヤのすることに免疫がついたのか、あまり彼女の行動に驚かなくなっていた。
「なにか、聞こえる。」
空になったグラスを元の場所に置くと、ナターリヤは呟いた。本田は首を傾げてから耳をすませる。遠くから、ぴーひゃらと笛の音がした。
「笛・・・・、そういえば、近所でお祭りがあると聞いたような気がしました。」
「オマツリ・・・?」
ナターリヤは単語の意味がわからず首を捻った。本田はそれを見てふふ、と笑う。
「そうですね・・・言葉で説明するよりも、行って見たほうが早いと思います。行きますか?」
本田の問いかけにナターリヤはキラキラと目を光らせて、思いっきり首を縦に振った。



本田の提案にのったナターリヤであったが、「祭り」に行くには準備が必要だと言われ、行くまでには少しの時間がかかった。まず本田はナターリヤを浴衣に着替えさせ、髪を結った。そして自分も浴衣を着ると、ようやく祭りの会場に向かった。
本田の家の近くの神社で行われている、小規模な夏祭りであった。出店の数も少ない。それでもこの異様な光景を初めて目の当たりにしたナターリヤは、きょろきょろと落ち着きなく瞳を光らせた。辺りは暗くなっていたが、人の姿が確認できないほどではない。いつものことながら、美しいナターリヤの容貌に祭りに来ていた人は遠巻きに見てはひそひそと耳打ちをするのだった。浴衣を着せてこなければよかったか、と一瞬だけ思った本田であったが、しかし浴衣を着たナターリヤは本当にかわいらしかった。いつもと違ってうなじが見えるように結いあげた髪も、浴衣姿にあっている。なによりナターリヤが浴衣を着ることを喜んでいるようだった。
ナターリヤは本田の手を引っ張り、「これはなんだ」「あれはなんだ」と質問責めにする。本田はそれをにっこりと笑ってから、丁寧に説明した。
「本田、今度はあれだ!あれはなんだ!」
ナターリヤが指差す先には甘ったるいザラメの匂いが漂うわたあめの出店があった。
「あれはわたあめ、と言ってザラメという砂糖を溶かして作るお菓子ですよ。ああほら、あれ・・・・ハートキャッチプリキュアの袋がいいんじゃないですか?」
本田が手にとったのは日曜の朝に毎週放送している女児向けアニメのキャラクターたちがかわいくプリントされた袋だった。ナターリヤは生き生きとする本田をよくわからん、と見つめる。
「はーときゃっち・・・?よくわからないが、あれはうまいのか!?」
「それは食べてみなければわかりませんよ。」
そう言うと、本田はわたあめを買ってナターリヤに手渡した。
「どうぞ。」
「あ、ああ・・・。」
ナターリヤは手渡された袋をあけて、ふわふわの白い雲のような食べ物をまふ、と口に含んだ。空気を食べているような不思議な感覚。でも、甘い。
「・・・・うまい・・・。」
ふと、自然にでた言葉に、本田はにっこりと笑った。
「それはよかった。お口にあってなによりです。」

わたあめを食べ終わった次はその隣にある射的の屋台だった。
「あれは・・・・あの男を撃てば勝ちなのか!」
戦場にいるときのようなキリリとした瞳になるナターリヤを、本田は手で押さえつけた。
「ち、違いますよ!あれは欲しい景品を狙って、撃ち落としたらそれを貰える、というものです。」
本田が説明すると、ナターリヤは景品をじろりと見据えた。
「なにか欲しいものはありますか?」
「え、じゃ、じゃあ、あのクマ・・・」
ナターリヤは、一番端にあるクマのぬいぐるみを指差した。本田は意外なものを頼まれて、きょとんとした。
「ナターリヤさんにも、かわいらしいご趣味はあるんですね」
にっこりと笑うと、ナターリヤはふん、と鼻を鳴らす。
「う、うるさい。お前がいきなり欲しいものとかいうからだ!あと、そういうのは取ってから言え」
ナターリヤがギリ、と睨むと本田はふふ、と笑った。
「私を誰だと思っているんですか?極東の虎と呼ばれた私の実力、侮らないでくださいね?」
怖いくらい冷たく微笑んで、射的銃のコルク栓を弄んだ。きゅ、きゅ、と銃にそれを入れ、狙いを定める。カチ、と引き金を引くと銃から放たれたコルク栓はクマのぬいぐるみのおでこに当たり、ぐらりと揺れてぽとんと並んでいた棚から落とされた。
「おお!兄ちゃんやるねえ!」
射的屋の店主が感嘆の声を上げるのとは反対に、ナターリヤは不機嫌そうにクマのぬいぐるみを受け取った。
「はいはい。すごいすごい。」
「もっと喜んでくださいよ。ナターリヤさんのために取ったんですからね?」
結局本田は残りのコルク栓でキャラメルやらガムを取り、全ての弾を景品に命中させた。
「まあ、こんなものですか・・・。」
「・・・・本田のくせに生意気だ。」
「えええ?」



一通り出店を見て回ると、ナターリヤは足を引きずったように歩いていた。
「な、ナターリヤさん!足!」
「あ、なんか痛いと思ったら・・・。」
慣れない下駄で靴擦れを起こしてしまったようだった。右足の親指と人差し指の間から血が滲んでいる。
「早く手当てしないと・・・!」
本田はナターリヤを抱えて石段に座らせた。懐から何故か持ってきていた消毒と絆創膏を取り出し、ナターリヤの傷の手当てをしていく。
「全く・・・・痛いならもっと早く言ってください・・・!」
「・・・・ご、ごめんなさい・・・。」
「よし、できました。」
ぺた、と絆創膏を貼り、ナターリヤを立たせた。
「おぶりますから、掴まってください。」
ナターリヤはしぶしぶ本田の肩に掴まって、言われるがままに本田におぶさった。浴衣で足を開くのはどうかと思ったが、この際仕方ないのだ。
ぽてりぽてり、と歩く本田は、わたあめの甘い匂いや、焼きそばのソースの色々な匂いが混ざる小道を抜けて、家に向かう。背中にあるぬくもりと、背中にあたるふくらみは、気にしないようにしても無駄だった。とりあえず他のことに意識を逸らそうと素数を数えてみる。どこまで数えたかわからなくくらい数えていると、背中から声が聞こえてきた。
「本田・・・」
「な、なんでしょう?」
「今日は、・・・その、ありがとう。・・・楽しかった。」
ナターリヤは、ぽすりと本田の肩に頭をのせた。髪の毛があたってくすぐったい。彼女はどんな表情をしているのだろうか。