二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ある夏の夜の話

INDEX|1ページ/1ページ|

 
カラコロと軽快な音が夜道に響く。
すれ違う女性の多くは浴衣を纏い、親子で浴衣というグループもあった。
カップル、友人同士のグループ、親子連れ。
さまざまな人が行き交う場所に、正臣と沙樹は手を繋いで歩いていた。

「暑いねー」
「そうだなー」
周囲のカップルとは異なり、二人とも浴衣ではなく洋服姿で歩いていた。
「どこまで行くの?」
「んー、ちょっと人が少ないとこ」
「そうなんだ。ここから遠い?」
「いや、結構近いかな。俗に言う、穴場ってやつ」
言いながら、正臣は道の両端に並ぶ屋台を覗き、少しずつ食べるものを買っている。
それは二人で食べるには少し多いくらいの量。
気がつけばお互い、繋いでいない方の手に食べ物を持っていた。
「こんなに食べきれるかな?」
「どうかなー。ま、余ったら持って帰るとか」
「臨也さんに届けるとか?」
クスクス言う沙樹に、正臣はあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。
その様子を見て、沙樹は「冗談だよ」と苦笑する。
「あー、すっげ嫌な名前聞いた」
「そこまで嫌わなくてもいいんじゃない?」
「嫌うに決まってんだろー」
「でも臨也さんがいなかったら、私たち、一緒にいなかったかも」
「…じゃあ百歩…いや、千歩?一万歩かな…。そんだけ譲って、嫌な顔するのはやめておく」
「そうだね。その方が、楽しい気分が台無しにならなくて済むよね」
「…沙樹も結構言うな」
「そうかな?」
微笑みながら、沙樹はそんなことを口にする。
その様子を、正臣は苦笑しながら受け入れる。
いつものやり取りを交わしながら、二人は正臣の言う穴場へと向かっていた。

この縁日に来ようと提案したのは正臣だった。
たまたま買い出しに行った場所で見つけたポスターが、沙樹の目に留まったのがきっかけだった。
聞けば、こういった縁日に来たことはほとんど無いらしい。
少しだが花火も上がるということだった。
普段、正臣と臨也以外にあまり関心を示さない沙樹が、たまたま興味を示した。
それだけで、正臣にとって沙樹と二人で行く価値は十分にあった。

他愛のない会話をしながら歩いている内に、少し開けた場所に出た。
住宅街にありそうな、児童公園のようなそこに、正臣はどんどん足を進める。
もちろん、手を繋いでいる沙樹も同じように足を進める形になる。
芝生で埋められた場所の一角で正臣は足を止めた。
「ここ、座ろっか」
「うん」
そう言って、二人は芝生の上に腰を下ろした。
そこから視点を上へと向けていくと、星がまばらに光る夜空が広がっていた。
「きれいだね」
「だな」
二人して、空を見上げる。
そこにあるのは、星ばかり。
花火が打ち上げられる気配はまだ無い。
正臣は買ってきた食べ物を開け、沙樹にもそれを渡す。
正臣に渡されたものを受け取りながら、沙樹は正臣に話しかけた。
「ねえ、正臣」
「んー?」
「ありがとう」
「なにが?」
続く言葉は分かっていた。
けれど、正臣はその言葉を促す。
そんな流れに苦笑しながら、沙樹は答えた。
「花火。連れて来てくれて」
「俺も行きたかったから」
「私と?」
「もちろん」
きっぱりと言い切る正臣に、沙樹は苦笑する。
彼の言葉は本心なのだろう。
けれど、その奥に隠されたものに、沙樹はなんとなく気付いていた。
「今度は、別の人とも行きたいんじゃない?」
「例えば?」
「幼馴染の子とか、三角関係になってた女の子とか」
「あー…」
沙樹の鋭い指摘に正臣は苦笑する。来たくないと言えば嘘。
でも一緒に行きたいという気持ちがあっても、正臣の心の整理がついていない。
「まだ、会えそうにない?」
「…うん」
「そっか」
そう言って、沙樹は手にしていた食べ物を口に運ぶ。
その動作が一段落するのを見計らって、正臣は沙樹を抱き寄せた。
「なぁに?」
「んー、なんでも」
「嘘だぁ」
クスクス笑いながらも、沙樹は正臣の行動を受け入れる。
それは出会った時から変わらない構図で、離れていた期間を埋めるような行為となっていた。
「正臣はそうやってすぐに誤魔化すね」
「誤魔化してねーよ」
「誤魔化してるよ。私にはわかるもん」
「あー、沙樹、エスパーだもんなー」
「正臣限定でね」
そう言って、二人は顔を見合わせてクスクスと笑い合う。
そんな中、正臣がおもむろに沙樹にキスをした。
それは何度も繰り返され、徐々に深いものへと変化していく。
それを受け入れつつ、けれど沙樹は途中でそれを制した。
肩を押し返された正臣は、残念そうな、そして不満そうな表情で沙樹を見る。
「だめ?」
「だめ。もうすぐ花火、上がるもん。せっかくだからそれ見よ?」
「えー」
「いいじゃん。家ですれば」
「外だから、いいんじゃん」
頬を膨らませ、正臣は沙樹に言う。
そんな様子を苦笑しながら見つめ、誤魔化すように体をより密着させる。
それで少し妥協することが出来たのか、正臣は沙樹を抱き締めるように腕を回した。
「あんまりぎゅっとしたら、痛いよ」
「大丈夫、その辺の加減はちゃんとしてるから」
「分かってるよ」
そんなやり取りをしていると、二人を彩るように打ち上げ花火が空に咲いた。
色とりどりの花、そして耳を劈くような大きな音。
そのどちらに反応したかは分からない。
けれど、花火が上がった瞬間、沙樹の体がびくりと震えた。
その様子を見て、正臣はククッと笑みをこぼした。
「なに、びっくりしたの?」
「ちょっとね」
正臣の言葉を肯定し、沙樹は苦笑する。
そんな彼女の頭を軽くなで、正臣は口を開いた。
「まあこれから慣れていけばいいんじゃないか?」
「うん」
「来年も、再来年も来たら、そのうち慣れるだろうし」
「そうだね」
沙樹は嬉しそうに正臣の言葉に答える。
以前とは違う、先が約束されたような言葉。
その言葉に幸福感を覚え、沙樹は正臣に体をすり寄せた。
作品名:ある夏の夜の話 作家名:香魚