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それらすべて、かけがえのない日々(1)

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「ねえねえ誠二! あのウェディングドレス可愛いね! あっ、でもあっちのタキシードも素敵! でもでもっ、誠二ならきっと何着ても素敵なんだろうなあ…!」

 サンシャイン通りを歩いていると、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
 ふと立ち止まった帝人に、「どしたー?」と正臣がふり返る。必然的に二人の隣を歩いていた杏里も足を止め、帝人の視線が向かう方向へと顔を向ける。
 すると、三人の視線の先には制服姿の少年と、少年にぴったり寄り添う明朗な少女が歩いていた。否、歩いている途中である旅行会社の窓際に飾られていたウェディングの装いに少女が興味を持ったのだろう。きらきらと輝く瞳でウィンドウにかじりつく少女――張間美香と、矢霧誠二の姿があった。
 ふと、美香と杏里の視線がウィンドウ越しにばちりとかち合った。途端誠二の腕に己のそれを絡めたままで少女がぐるりと振り向く。

「あれ、三人そろっておでかけ? 仲いいねー!」
「おおっ、隣のクラスで杏里の友達なる美香ちゃん! アーンド矢霧! お前らは学校帰りにデートか? いっいな~このラブラブめ!」
「やだなあ紀田君! 私と誠二がラブラブなのは前世からだよ!」

 こんなこと言わせないでよ~! と、言葉とは裏腹な表情で言ってのける美香に同じくハイテンションで答える正臣を横目で見ながら、帝人は誠二へと声をかける。

「えっと、矢霧君たちはこれからどこか行くの?」
「ああ、買い物をしたいって言うから一緒にな」
「そっか。相変わらず仲が良いんだね」
「竜ヶ峰たちも、似たようなもんだろ」
「まあ、そうだけど」

 なんだかんだで、いつも一緒なんだよね。と帝人が笑う横で、杏里がおずおずといった様子で誠二に話しかける。

「あの、さっきの、」
「ん?」
「杏里ちゃんもそう思うよね!」
「え…?」

 突然会話に入ってきた美香の唐突な質問に杏里が目を瞬かせる。

「ええと、何が、ですか…?」
「ウェディングドレスは女の子の憧れだよね、って話!」
「それは…」
「うぇいうぇいうぇーいっ! ドレス姿の杏里もそれはそれでエロかわいいけど、白無垢に包まれた杏里も捨てがたいと俺は思うわけで! っていうかさっきから黙ってるけどお前はどう思うんだよ、みっかどー!?」
「ええっ、僕!?」

 返事を返そうとした杏里の言葉は、今度は正臣によって遮られてしまった。
 誠二と二人、目の前の会話を傍観していた帝人はいきなり話を振られたことに慌てて肩をすくめる。その頬がほんのりと赤く染まっていることに気付かぬ幼馴染みではない。

「あれっ、赤くなってるってことはもしかして杏里のドレス姿とか白無垢姿とかアラレもない姿とか想像しちゃったカンジ? 帝人クンてばエロエロ星人―っ」
「うわあちが、ちがうよ! 正臣のバカっ!」
「べっつに照れなくたっていいんだぜー。帝人だっておとこのこだもんなっ」
「それフォローになってないよ…」

 がくりと肩を落とす帝人の横で、くすくすと控えめな笑い声がした。

「園原さん?」
「杏里―?」

 帝人と正臣が同時に杏里の顔を覗き込む。
 どうしたの? そう顔に書いてある二人の視線に、杏里は「あっ」と小さく声を上げて俯いた。
 そして、小さな声でぽつりと言う。

「なんか…、こうしてみんなで学校帰りに話せるの、たのしいな、って……」

 思って、と。
 それから付け足すように、「美香さんは、ウェディングドレス、似合うと思います」と呟いた。

「っうおおぉ――!!」
「なっ、なに正臣!?」
「杏里ってばかっわいいなあ! あっもうだめ、俺様その笑顔にノックダウン! 杏里ってばこれ以上俺を虜にしてどうするつもり!?」
「え、その、……すみません」
「園原さん、謝ることないからねっ! 正臣ってばどうしてそういうことばっかり…!」
「おや? おやおや? 帝人クンは杏里の可愛さをまだ理解してないのか? それとも他の男に杏里の可愛さを見られるのが嫌だってか?」
「だからまたそういう…!」

 ああ云えばこう云う、まさにそんな言葉の応酬を始めた二人組を見ながら、美香は思わず唇を緩めていた。知らずのうちにその唇に笑顔が浮かぶ。

「――杏里ちゃん」

 おろおろと友人二人のやり取りを眺める少女――彼女の友人の隣にすっと移動した美香に、杏里は「なんですか…?」と答える。

「いい友達ができたね」

 にこりと微笑んだ笑顔は顔のパーツが以前の彼女のそれと異なっているものの、かつて杏里の見た少女の笑顔そのものだった。

「――…はい」

 久しぶりに見た杏里の笑顔に、美香の心を安堵感が訪れた。
 誠二とはまた違った意味で大切な友人の少女が、今新たな友人たちと幸せに過ごしている。それだけで美香は嬉しかった。

「行こっ、誠二!」
「――ああ」

 おもむろに誠二の手を取って美香は走り出す。相変わらず杏里の横では男子高生二人の不毛な言い争いが続いているのを見ながら、美香は空いている方の手をぶんぶんと大きく振った。

「じゃあね、杏里ちゃん! またあした!」
「はい。また明日」
「さっきの、ドレスが似合うって言ってくれて嬉しかったよー! 杏里ちゃんも絶対似合うと思う!」

 言いながらどんどん遠ざかる二人を見つめながら、杏里は小さく「……ありがとう、」と呟いた。

「あれっ、矢霧たちいつの間に帰っちゃったの?」
「ほんとだ。もー、それもこれも正臣が変なこと言い出すから…」
「変なこととは失礼だな! 女子の身体を包み込む純白のドレスに思いを馳せる、純粋でピュアな男心じゃないか!」
「そういうところが…って、また堂々巡りになるとこだった。ごめんね園原さん、遅くなっちゃうし、そろそろ帰ろっか」
「…そうですね」
「帝人ってば紳士じゃーん! と見せかけて送り狼? 送り狼なのか!?」
「正臣煩い」
「いやーん帝人のえっちー」

 駅へ向かう最中も二人のやり取りは続く。
 どちらかと言えば帝人は半ば呆れた様子だが、正臣との会話を楽しんでいるのも確かだろう。言葉は素っ気ないが表情は明るい。
 
「……ふふ、」
「園原さん?」
「あ、いえ、すみません」
「ううん。どうかした?」
「いえ、あの、私はこちらなので、また明日」

 そう言ってぺこりとお辞儀をする杏里に、帝人は慌てて答える。

「あ、うん。気をつけてね」
「じゃあなー杏里―! 今日もベリーキュートだったぜー!」

 相変わらずな挨拶で手を振る正臣にもぺこりと頭を下げて、杏里は帰路に着く。
 その表情はいつになく、明るいものだった。