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ラストゲーム3

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「はっ…く、ぁ…痛…っ」

シーツを血の気の無い指先が震えながら掴む。
痛む時間は長く、そして頻度も徐々に増えていった。
それでも臨也は誰に知らせることも無く、誰かに気付かせることも無く、ただ痛みに耐えていた。
痛みに塗りつぶされた脳裏によぎるのはきらきらとした金髪。
手に入れる――臨也は強く強くシーツを掴んだ。

「ドタチンおはよう」

門田京平の後ろ姿をみつけた臨也は全体重をかけてのしかかった。慣れたじゃれあいに門田は臨也の黒髪を乱暴に撫でる。

「おはよう。重いからどけ」

「じゃあこっち」

座っている門田の上に乗り、首に両腕を回す。

「重いって言ってるだろうが!」

「ええー、俺細いのに酷いよ」

門田の前には静雄が座っているが、臨也は無視した。静雄の隣にいた岸谷新羅と挨拶を交わす。

「そうだね、臨也ちょっと痩せた?」

新羅の言葉に臨也は軽く答える。

「ちょっと夏バテしてさぁ。今日も朝はこれだけ」

パックジュースをひらひらさせ、飲み始める。

「せめて野菜ジュースにしないと」

「今日はりんごの気分だったし」

門田はごそごそと自分の鞄を探すと、スティックタイプクッキーのような栄養補助食品を臨也に差し出した。
「せめてこれも食っとけ」

「ドタチン優しいー。サンキュ」

新羅がこれじゃあお母さんだよ、と笑っている。
いつもの風景。
1つだけ違うのは、臨也と静雄が一切口をきかないこと。
朝から静雄をからかって追い掛け回されることなど日常茶飯事にもかかわらず、臨也は静雄を見ることすらない。静雄は静雄で、ただ臨也を睨み付けているだけだった。

「臨也、重い上に暑苦しいからいい加減どけ」

教室に入ってくる風は朝だというのに既に熱をはらんでいる。

「ここ、俺のお気に入りなのに」

臨也は口にくわえたストローで支えていたジュースを隣の机に置くと、両腕を引き寄せてべったりと門田にくっついた。
そして、そのとき臨也は静雄を横目で一瞥し、紅い舌で唇を舐めた。

「っ、朝から気色悪いことしてんじゃねぇよ!」

紅い眸、濡れた唇、舌。

昨日のことを思い出した静雄が怒鳴り、臨也のジュースを握りつぶした。容易く原形を留めないほど潰されたそれからはジュースが滴り、甘い香りがした。

「ちょっと静雄何してるの」

「シズちゃん信じられない、まだそれ半分以上残ってたのに!本当に下手だよね」

死ねよテメェっ」

静雄が昨日の言葉に過剰な反応をしたことに、臨也は薄く笑みを浮かべた。
濡れたこぶしを受け止め、身軽な動作で門田の上から退く。

「何急に怒ってるの、変なシズちゃん」

そしてこぶしを受け止めた時に濡れた自分の手のひらを、臨也は見せ付けるようにべろ、と舐めた。

「本当に、シズちゃんって色々下手だよね」

切れた静雄が追いかけてくる気配に、幽かな胸の痛みを押さえ臨也はすばやく教室から
逃げ出した。
作品名:ラストゲーム3 作家名:氷迫律