Please Love Me?
今日はお昼休みの特訓も早めに終わり、後片付けが済んでも次の授業が始まるまでまだ時間が残っていた。先生に呼ばれているから、と席を外した樫野以外のチームいちごのメンバーは、中等部の調理室でまったりとお茶を飲んでいる。
事の発端は、花房がどこからか持ってきたCDだった。
「なあに、これ?花房くん。」
突然出てきた謎のCDに、いちごは首を傾げる。
「いや・・・樫野がいなくなったから、丁度いいかなーと思って。」
何かを企むようにしてにっこりと笑った花房は、手に持っていたCDを調理台に置く。見た目はただのCDだが、どうやら普通の音楽CDではないようだった。その証拠に、ジャケットには煌びやかな男の子が描かれている。
「なにかの・・・アニメ?」
わからない、と安堂はそれを手にとってみる。
「まあ、聞けばわかるよ。」
そういって花房はCDプレイヤーをとりだしてきた。
「そんなもの、どこにあったのよ・・・」
スピリッツ達も花房の行動に首を傾げるだけだった。
「まあ、まずは聞いてみて。」
にっこりと笑って差し出されたイヤフォンを、いちごは自分の耳に装着した。ピ、と再生ボタンを押すと、シャラララと優雅な音が聞こえてから、多分ジャケットに描かれた男の子の声だろう―――その声が、甘い言葉を囁き始めた。
約20分程度のそのCDを、いちごは顔を真っ赤にしながら聞いた。聞き終わると一気にイヤフォン引き抜いて、ぬあああああああと変な声をあげる。
「ど、どうしたのいちご!?」
パートナーが謎のCDを聞いておかしくなった、とバニラは慌てた。
「だ、だ、だってこれ!樫野が喋ってる!!!!」
いちごが聞いたのは、いわゆる乙女のためのドラマCDというもので、キャラクターに扮する男性声優が、それを聞く乙女のために愛の言葉を囁く、というCDだった。樫野だったら考えられないような甘い、口から砂糖がでるほど甘い、囁きを聞いて、いちごは顔を真っ赤にした。
「どうだった?いちごちゃん。樫野と同じ声に愛してる、って言われた感想は?」
「な、っ・・・は、恥ずかしい・・!だいたいドS樫野がこんなに優しい言葉をかけてくれるわけないし!というか!もう!は、恥ずかしいいいいいい!!」
いちごは火照った顔を両手で覆った。
「私も聞いてみたいですわ!」
興味津津に言ったのはショコラだった。パートナーに愛を囁かれることなど、天地がひっくり返ってもないだろう。あの樫野がどんな甘い言葉を言うのか、興味があったのだ。
「なら、キャラメルも聞きたいですう~」
ぴょんこぴょんこと、キャラメルが調理台の上で飛んだ。
「じゃあ、みんなで聞こうか・・・」
花房はCDプレイヤーのイヤフォンを引きぬいて、皆に聞こえるようにした。CDからは、樫野の、ではなく、樫野と同じ声が聞こえてくる。
その時、調理室の扉が開いた。
「悪い、遅くなった・・・」
キィ、と音を立てて入ってきたのは用事が終わって帰ってきた樫野だった。
『愛してる・・・』
CDからは、樫野と同じ声の、甘い囁きが聞こえている。
「・・・・・・!な、なにやってんだお前ら!てか!おい!止めろ!」
一人で慌てる樫野を尻目に女性陣は顔を赤らめ、男性陣はやれやれと樫野を見て溜息をつく。
「これ・・・ほんとに・・・樫野の声なんだよね・・・・」
真剣な眼差しで聞くいちごに、樫野は少しう、と言葉を失った。
「しょ、しょうがねえだろ!中の人の仕事に口出しするな!」
顔を真っ赤にして怒る樫野を見て、みんなは声をあげて笑った。
「は、恥ずかしいですわ!樫野!こ、こんなっあははははは!」
「確かにまーくんは絶対に言いそうにないかも・・・」
くっそう、と頭を抱える樫野を見て、いちごは笑った。
「でもさ。こんな風に、優しく愛を囁いてくれる樫野よりも、私は普段の樫野が好きだよ?」
「な、・・・・」
突然の言葉に、樫野はかあ、と顔を赤らめる。花房と安堂は無言で樫野の肩にぽん、と手を置き、よかったね。と目で訴えたのだった。
「・・・・ていうか・・・誰だこのCD持ってきたの・・・」
ふと気付いたように怒る樫野を見て、花房は口笛を吹いて窓の外を見上げた。他のメンバーはじろりと花房を見つめる。
「お前か花房!!」
「や、やだなあ樫野クン。暴力はいけないよ~」
「お前だっていっつもあんな感じで喋ってるじゃねーか!」
「そりゃ、そうだけど・・・僕はああいう樫野の声をいちごちゃんに聞かせたらどうなるかな~って。」
「う、う、うるさい!」
結局樫野と花房の口論は次の授業が始まるまで続き、放課後の特訓も、寮に帰ってからも続いた。いちごは樫野を見てはCDの声を思い出し、あの言葉が耳から離れなくて、樫野を見るたびに頬を染めたのだった。
作品名:Please Love Me? 作家名:ずーか