いつでも君の傍に!
アメリカから、今日君の家に遊びに行くよ、と電話をもらったウクライナは、何の用事だろうと首を捻った。そもそも、アメリカが電話で連絡をとってから遊びに来るなんて珍しい。いつもは大体突然やってきて突然帰っていくからだ。遊びに来る、と言っているのだから仕事関係の用事ではないはずだ。どうしたの?なんて聞いたら用事がなければ君の家に来ちゃいけないのかい?とか聞かれそうだ。
彼と、友達以上の関係になったのは最近のことだった。ロシアから独立し、EU諸国に友達を作ろうとしている時に話しかけてくれたのがアメリカだった。明るくて素直なアメリカはウクライナが今までに会ったことのないタイプの男の人で、色々大変なこともあったが最終的には恋人、という関係に落ち着いた。とはいっても、家は遠いし、お互いの仕事もあるのでいつでも会えるわけではない。仕事を放って愛し合うことは「国」である彼等に許されるはずもなかった。
アメリカが来るのを待って、ウクライナはお茶の準備をした。確かこの前上司から貰ったクッキーが棚にしまってあった気がする。お湯が沸いて、それをポットに注ぎ終わるのと同時に、玄関のチャイムがカランと鳴った。
「はーい!」
扉を開けると、にっこりと笑ったアメリカが、息を切らしていた。
「久しぶり!ウクライナ!」
ぎゅーっと抱きしめられる。大きい子供のようなアメリカに、やれやれと嘆息しながらも、かわいいと思ってしまう。久しぶり、と呟いて黄金色に輝く彼の髪を撫でた。
「ちょうどお湯が沸いたところなの。コーヒーでいいかな。」
「もちろん!ウクの作るものならなんでもいいんだぞ!」
やっぱり子供みたいなことを言うアメリカは、大国、というよりもウクライナに懐いた大型犬のようだった。ご機嫌のアメリカを見て、ウクライナはクスリと笑い声を零した。
ウクライナはソファに座るアメリカの前に、ほかほかと湯気の立つコーヒーを置いた。
「はい、どうぞ。」
ウクライナも自分のカップを持ってアメリカの隣に座る。
「ありがとう。ウクのコーヒーはいつもおいしいよね。」
こくり、と一口カップに口をつけたアメリカはにっこり笑って言った。
「そうかなあ?普通だよ。」
「いいや、ウクのコーヒーには俺への愛が詰まってる・・・なんて、気障かな?」
にや、と笑うアメリカを見て、ウクライナはぷっと吹き出した。
「ひ、ひどい!笑うことないじゃないか!」
ぷう、と頬を膨らませるアメリカを見て、ウクライナは余計笑いが止まらない。
「だって・・・アメリカくん、かわいい!」
けらけらと笑ったウクライナに、アメリカはむう、と拗ねたように言った。
「~~~~っ!かわいいのは君だよ!」
「へ?」
「・・・ちょっと、目を瞑ってくれる?」
「・・・?こうかな・・・。」
言われるがままに目を瞑ると、アメリカの指がウクライナの前髪に触れた。
「アメリカくん・・・?」
「いいって言うまで目、開けちゃ駄目なんだぞ。・・・・よし、できた。・・・もういいよ。ウク。」
瞑っていた目を開くと、目の前に鏡が用意されていた。前髪には赤い花のついたヘアピンがささっている。
「これ・・・・?」
ウクライナは突然のことに驚いた。鏡を置いて、アメリカの顔を見上げる。
「記念日、おめでとう。ウクライナ。」
今日8月24日は、ウクライナ独立の記念日だった。誕生日おめでとう。アメリカはにっこりと笑う。
「アクレイギア。俺の国の国花だよ。花言葉は、『必ず手に入れる』とか。『勝利の女神』とか・・・あとは・・・『貴方だけを想う』」
にいっと、いたずらっこのように笑うアメリカを見て、ウクライナはポタリと一粒、涙を流した。
「ありがとう・・・アメリカくん。嬉しい・・・。」
涙を流しながら、ウクライナは最高の笑顔を浮かべた。アメリカはウクライナの頬に手をあてて、親指で涙を拭う。
「キス・・・しても、いいですか。」
緊張して顔を強張らせ、頬を染めて聞くアメリカを見て、ウクライナはアメリカの手に自分の手をのせた。
「ええ、もちろん。」
口付けた二人は唇を離すとお互いに笑う。
ウクライナの前髪の、綺麗に咲いたアクレイギアが、ゆらりと揺れた。
これで、いつでも一緒だよ。