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誘導する人されるひと

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「僕には到底理解できないよ」

クラスの扉からこちらをちらちらと伺うようにしていた姿は数秒前のことだと思うのに、いつの間にか目の前にいるのがこの男の不可解なところだ。消極的なのか積極的なのかいまいちわかりづらい。消極性と積極性は必ずしも相対するものではないのかもしれない、そんなことを思うほどに。曖昧だ。この男のすべてが曖昧で、中途半端な均衡で保たれているみたいに。
そんな奇妙な男に対し、政宗は面倒がっていることを隠しもせず、なんだよ、と口だけで応えてやった。正直、ほんの少し前に何を言われたかも覚えていない。近くに開店したフルーツパーラーの紹介冊子に目を通す作業の方が、よっぽど重要であり且つ有意義だと自負しているからである。
見た目にそぐわず、とは言われ慣れた言葉で、別段男が甘いものを欲する姿を政宗自身は気持ち悪いとは思わない。むしろかわいらしいとさえ思う。政宗は自分を心から愛しているし、不特定多数から愛されていることだって十二分に知りえたことだ。前方の机に腰をおろしたままの男は、見下ろすようにして同じ部分に目を通してくる。
甘そうだねえ、と、写真のパフェやプリンと同じぐらい甘ったるい声が降りかかる。耳をくすぐられる、というのはこういう感覚のことを言うのだろう。その声やめろ、と伝えたとして、なにが? と問われればまた面倒だ。それにもやはり無視を決め込んだ。そのような政宗の態度をなんら気にとめることもなく、男――常磐津は続ける。
豪奢に改造された制服は嫌でも目を引くが、妙に似合っているから癪だ。
死んでも口にすることはないけれど。
「まっつんの女の趣味ったら本当、寒気がするよ」
「ビーストマスターのお前にだけは言われたくねえよ」
「確かにメグを筆頭とした彼女達は愛に燃える美しき獣だったけど」
「口を慎め!!」
「ほんと短気だなあ」
耳を塞ぎたくなるような常套句に我慢がきかずに吠えると、常磐津は大層嬉しそうな表情をみせたあと(それはさながら餌を与えられた犬のようで逆に気味が悪かった――)、ひと呼吸置き、にっこりと微笑んだ。
ああ、こっちだ。
政宗は確信する。
胡散臭い笑顔は常磐津の専売特許である。数年前は毎日のように浴びせられたその表情は政宗の心中を乱しはするものの、どこか懐かしい気分にもさせるのである。昔馴染みとは言いたくなかったが、この男の過去を知り過ぎている自分は、やはり”こちら側”の常磐津の方がしっくりくるのだった。
いびつな箱に、いびつなパーツがきっちりおさまっている。めぐみがつくったチョコレートみたいに。
常磐津の両眼は爛々と輝きはじめ、それに呼応するように政宗の心音はじわりじわりと早まっていく。懐かしい感覚だ。
「……なんだテメェ、久々に死にてえのかよ?」
「ええ? ……まっつんが望むなら、そりゃもういくらでも?」
恐ろしく白い肌に、ちらりと赤い舌が映える。無駄に長い睫毛は微動だにせず、教室の喧騒を諸共しない。
ああ、パフェもプリンも後回しだな、と、冊子を閉じると、また「犬みたいな表情」をしているに違いない常磐津に向かって勢いよく拳を振るった。

どうせそれもワザとだろ? 唇が渇く。
作品名:誘導する人されるひと 作家名:knm/lily