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眠るのも惜しいくらい、大切な時間を

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(  こっくり こっくり  )


キーボードを叩く音だけが響く部屋
その部屋にあるソファーの上で、子供は小さく欠伸を漏らした
小さく揺れる漆黒の髪がライトに照らされている
時折その動きがぴたりと止まっては、ふるふると震わせて、ぎゅっとクッションを抱きしめた

その姿はとても可愛いものだが、危なっかしい
そんなことを思いながら臨也は苦笑を漏らすと、パソコンから目を離して口を開いた


「……帝人君、そろそろ寝たほうが」
「いや、で…す」
「もう眠いだろう?無理しないほうがいいよ」
「むり、なんて……してな……」


目を擦って覚束無い声で喋る
誰がどう見ても寝てしまう一歩手前の状態だというのに、帝人はそれでも頑なに眠ろうとしない
臨也は溜息を一つ零すと、静かに椅子から立ち上がってソファーに腰掛ける帝人に近づいた

帝人がゆっくりと首を傾げた、ときだった


「?い、ざ……」




ぽすん、




帝人の細い肢体がふわりと押されて、そのまま重力に従ってソファーに沈み込む
きょとんとした表情の帝人を見て、臨也は小さく笑いながら帝人の髪をそっと撫でた

「まったく……どうしてそんなに眠りたがらないの」
「……ざや、さ………だって、」
「ん?」
「だって………から、」
「……え、」

「……ひさしぶりに、あえたから」






いっしょにすごしたいんです






まどろみかけながらも、それでも帝人は必死に言葉を紡ぐと、頬を少し染めて視線を逸らした
臨也はというとぽかんと口を開いたまま、酷く間抜けな姿で固まってしまっている
彼を知るものなら驚愕するであろうその姿を、帝人はおずおずと見つめ返して、そして、幼い顔を綻ばせた

どくん、と臨也の心臓が脈打つ
それと同時に顔中が熱くなる心地がした



「ばっ…ななな、に言ってるの!ほらっ、もういいから寝なさい!」

珍しく真っ赤になって慌てる臨也を見て、帝人はくすくすと笑う
それに臨也はむっと不満を露にした

「ちょっと…なに笑ってるのさ」
「だって…臨也さん可愛い」
「……可愛いって、」

それは君のほうでしょ、と呟きかけた言葉は、柔らかい衝撃に消されてしまった




「……え、?」

突然の出来事に、臨也は遅れてそれがキスだったこと、キスは帝人からされたことを理解した
一方の帝人はというと、幼顔を赤くしながら、それでも悪戯っぽく笑ってみせる





臨也の頭の中で、ぷちんと何かが切れた





「?いざ、や……ひゃっ!」

固まった臨也に帝人が首を傾げた途端、帝人の身体が急に浮き上がった
所謂「お姫様抱っこ」の状態になった帝人は、落ちないように臨也にしがみつく

「な、ななにを」
「ごめんねもう無理、我慢できない」
「は、い?」
「煽ったのは帝人君だからね」
「え…!?」


有無を言わさぬ臨也の行動とこれから起こるであろう出来事に、帝人のまどろみかけた脳が覚醒する
それでも臨也は気にせず、わたわたと暴れる帝人を強い力で抱えたまま寝室の方へと向かって行く

「いいい臨也さん僕もう目が覚めたんで!」
「そう、それなら都合がいいね」
「都合がいいって…!それに仕事は、」
「朝急げばなんとかなるでしょ。まぁ…、」



ひさしぶりにあえたんだから、たのしもうよ



酷く嬉しそうな笑顔でそう呟いた臨也に、帝人はぐっと言葉を詰まらせると

真っ赤な顔を隠すように臨也の首に腕を回して、「優しくしてくださいね」と零した