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理性の崩壊、10秒前

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・・・くそっ!!なんだって言うんだっ!
夕日を背景に、荒垣 真次郎はがむしゃらに走っていた。
別に、真田 明彦のようにスポーツ馬鹿でもなければ、己を極限まで鍛え抜くことに目覚めたわけでもない。
ニットキャップを深くかぶっているせいで表情は読み取れないが、明らかに彼は動揺していた。
・・・わかってたはずだ。あのとき、ペルソナを暴走させ人一人殺しちまったとき!!
  SEESを、抜けたときから。
どこに向かっているのか?それは、本人にすらわからない。それほどまでに彼は、動揺していた。いや、動揺しているとは違う感情なのかもしれない。
それは、認めたくない事実を突きつけられた絶望感、シンジがSEESを抜けるきっかけになったときの、それに似ていた。人を殺してしまった、それを認めてくなく、SEESを、
桐条 美鶴と真田 明彦のもとを去った、あのときの気持ちに。
・・・俺があいつら二人のとこからいなくなれば、自然と出てくることだ。もともと、あの寮には俺、アキ、桐条の              
  3人だけだった。俺が抜ければ、男女二人っきりになる。あの二人がくっつくのも。



別に、確証があったわけではない。いつものように路地裏で昔のくだらないことへの感傷に浸っていただけだった。不良の一人がつぶやいたんだ。「桐条と真田、できてるらしい」って。
俺には分からない。
でも嫉妬したのは確か。
だが、どっちにしたのかわからない。
桐条に、昔から一緒だったアキを取られたという、子供染みた感情を抱いたのは確か。
アキに、好きな女を取られたという、殺気に似たドロドロとした感情を抱いたのも確かだった。

気付いたら、がむしゃらに走っていた。

そして、シンジは足を止めた。目の前に佇む建物は美鶴と明彦が住んでる寮。
・・・どうでもいい。
なかば自棄になって、寮の扉をくぐる。
・・・一番、あいたくねぇ奴だったかもしんねぇ。
ソファで優雅に本を読んでる彼女が、桐条美鶴が目に入る。
「早かったな、明ひ・・・・」
「残念ながら、アキじゃねぇ。アキはどこだ?」
美鶴はシンジがくるとは思ってはいなかったようだ。彼女の形のいい口が、明彦の名を呼んだことにシンジは苛立った。けど、一番嫌だったのは明彦を理由にきたと見せかけている自分自身。
「ん?今日は夜遅くまでこないと言っていたぞ?」
・・・もうだめなんだ。
美鶴の言葉が丁度終わった。そのときにはすでに、シンジは彼女の方を掴んで結果に押して押していた。
彼女の紅い髪がふわりと弧を描くように浮いた。
「荒・・・垣?何を・・・」
驚いて声が出ないようだ。あぁ、俺はこれからどうするのだろう?
低い笑い声と共に、彼の理性が脳内で音を立ててくずれ堕ちるまであと・・・。

作品名:理性の崩壊、10秒前 作家名:namo