とある夜の出来事
「油断してるんが悪いんじゃ」
ひょい、と皿に一つだけ残っていたソーセージを口へ運ぶ。
憮然とした表情を浮かべ、此方を睨みつけてくるのは。
人間台風と恐れられている人物――のハズ。
「だったらコレは僕が貰うからねっ」
「あ!トンガリ待たんかい!それはワイのや!」
トンガリは別の皿に残っていたトマ肉のソテーを、掻っ攫っていった。
そして、一口で頬張る。
「君だって、同じようなっ、ことっ、しただろっ!」
もぐもぐと口を動かしながら、反論するトンガリ。
頬袋でもあるのか?と言う疑問が浮かぶ程、頬が膨らんでいる。
「食べるか喋るか、どっちかにせぇや……」
「……もぐもぐもぐもぐ」
途端に黙り、咀嚼。
まるで小動物か何かのようだ。
それを横目で見ながらイスの背凭れに寄りかかる。
「それ食い終わったら宿に帰るで」
「えっ、もう?まだもう少し良くない?」
「阿呆、明日も早いんやぞ。寝不足んなってもしらんで」
「そっ、それは嫌だなぁ……」
トンガリは眉根を寄せ、困ったような笑み。
それを見てふっと鼻で笑う。
「まぁ、ええわ。ワイは先に帰るで」
「え?」
「おんどれはもう少しゆっくりしたらええよ」
グラスに残っていた酒を一気に呷り、テーブルに金だけ置いて席を立つ。
ほな、と一言だけ言い。
きょとんと此方を見遣るトンガリを置いて、酒場を出た。
月が昇り始め、空は次第に闇色に変わり始めていた。
陽が落ちてくると、やはり冷える。
酒を飲み、少し火照った身体には丁度良い。
次第に街中の喧騒が大きくなり、夜はこれからと言ったところか。
その喧騒に混じり、小さいながらも此処最近聞きなれた声が耳に届く。
「う、ウルフウッド……!ちょ、待ってよ!」
「……ん?」
空耳かとも思ったが、足を止めて後ろを振り返り。
そして呆気にとられた。
丁度トンガリが駆け寄ってくるところだった。
息を切らしながら、此方に笑顔を向けてくる。
「良かった、追いついた、よ……」
「何やねん、どうした?」
「いや、ほら、帰るところは一緒なのに、別々に帰るのって変じゃない?」
こいつと行動をするようになってから、本当に人それぞれの考え方があるもんだ、と度々思う。
止めた足を再び動かし、宿へと向かう。
それに呼応してトンガリが隣に並び、連れ立って歩く。
「別に、別々でもええんちゃうんか?」
「ん?うーん……まぁ、そうなんだけどね」
「なら、もう少しゆっくりしとったら――「それは僕が嫌だったみたい」」
「……はぁ?」
良かったやんか、と最後まで言うことなく、トンガリに言葉を遮られた。
思わず間の抜けた声が出てしまう。
隣のトンガリは、なにやら考え込んでいる仕草。
少しの間そうしていたかと思えば、ふっと顔を上げる。
どうやら整理がついたらしい。
「んー……なんか、一人が嫌だったみたい」
「……さいでっか」
「うん、さいですー」
「……」
「なんだよ、いいじゃんか別に……早く帰ろー」
「へーへー、あんまりはしゃいでこけるなや」
「あっ、なんだよ!子ども扱いするなよな!」
相変わらず、考えていることが読めない。
コレで人間台風と恐れられているのだから、更に性質が悪い。
いっその事、トンガリ観察日記でも付けてみるか、と思った。
そんな、とある夜の、些細な出来事。