ラヴィン
「愛してるっす」
奴はそう言ってこちらを見た。背の高い奴がこちらを見ると、どうしても俺は見下ろされている恰好になる。夕日を受けた奴の顔は、そのせいだけではなく赤く見えた。
「・・・えーと」
「愛してるっす」
もうからだじゅうあつくてあつくてあつくてしにそうなくらい。愛してるっすまじで。奴はそんな、頭とろけてんじゃねえの病院行けば、と言いたくなるようなセリフを見たこともない真剣さで俺の瞳を見つめながら言い続けた。奴の瞳は子犬の目だ。黒目がちでまっすぐにうるんでいる。俺はこの瞳にとても弱かった。
「宍戸さん、愛してます。愛して「いやもうそれはわかったから、うん、ちょっとまって。落ち着いて」
「おれは落ち着いてます」落ち着いてないのは宍戸さんのほうでしょ。そう言って奴はまたまっすぐに俺を見詰めてくる。ああもう。だから。やめろよ。その目。おかしくなるよ。いや、もうおかしいのか。この状況に目の前のこいつ、ついでに今ここで「愛してる」なんてぶっとんだ告白を聞いている俺も。
「・・・あのさあ。おまえさ。それ本気なわけ」
「まじもまじ大まじです」
「・・・古くね?」
「古くありません俺のきもちはいつでも新鮮です」
「・・・ああ、そ」
「宍戸さん」
「・・・なによ」
「愛してます」
「・・・もーわかった」
ああ。だからその目をするなっての。その目で俺を見んじゃねえよ。おかしくなんだろ。おまえがその目をすると俺まで変なこと口走りそうになんだよ。だからやめろよ。ああもう。だから。
「・・・もーいいよ」
「・・・はい?」
「すきにしろ、ばか」
「・・・!ししどさ・・・!」
「うざい」
「うっ・・・ありがとうございます!」
愛してるっす、ともういちど言いながら奴は俺にかぶさってくる。おいおい、おまえでかいんだから勘弁しろよ。潰れるって。押し潰されるって。そんなことを思いつつ、奴の異様なまでに嬉しそうな顔を見ていたら、まあでも、もうなんでもいいかな、などと思ってしまって、そんな自分に俺はためいきをつく。
「宍戸さん」
「なんだよ」
「しあわせにしますから」
「バカ、当たり前なんだよ!」
言いながら軽く首を絞めると、奴はあははと笑いながらもういちど、しあわせにします、宍戸さん、と言った。その顔があまりにしあわせそうで、俺は体の奥のほうからカァと熱がこみ上げてくるのを感じた。そして思わず俺はつぶやいた。
「おまえ、すげーよ」
だって、だっておまえ、俺はノーマルだったんだぜ。のはずだったんだぜ。なのにまんまとおまえと付き合うことになっちまってる。すげーよ、この俺を丸め込むなんてさ。この責任はかるくはないぜ。しあわせにするなんて、そんなの当たり前だ。そんなぬりーことで終わると思うなよ。覚悟してろ。俺に付き合わせるってことは、それくらいの覚悟はあんだろ?
「? なにがですか?」なんて言いながらふしぎそうに俺のほうを見る奴に、「ばーか」と頭突きを喰らわせて、俺はふっと笑った。
「行くぜ、ちょうたろう」
痛いですよ何するんですかぁなどと涙混じりにつぶやきながら「はい、宍戸さん」と奴が返事をする。
今日からこいつが、俺の恋人だ。