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「うわぁ~!かわいいかわいい!あんたほんまにかわいいなぁ!」
カシャ、という音と共にリカの携帯が一瞬ピカッと白く光った。
携帯の画面には怒ったように少し俯いた緑川が写っていた。
「つり目がたまらんなぁ~」
「リカさんって一之瀬さんみたいな人がタイプなんじゃないんですか?」
リカと緑川の一連の流れを見ていた春奈が後ろからひょっこりと顔を出して携帯の画面を覗き込んだ。
「ダーリンはダーリン!また別や。緑川は“かわいい”やねん」
「あぁ~まぁ確かにかわいいとかっこいいは違いますよね」
リカは携帯の画面を操作して緑川の写真を『後輩』というフォルダに保存した。
緑川が二人の会話を聞き、「それっておれはかっこよくないってことぉー」と不満気な声を出した。
しかしリカと春奈は会話に集中しているのか、あえて聞こえないふりをしているのか緑川の言葉を無視して続けた。
「好きになる人はダーリンみたいな正統派かっこかわいいタイプやねんけど、子供はつり目の子がええねん」
「はぁ~、なるほど!子供なのにつり目、でもかわいいってのは、いわゆるギャップってやつですかね」
「あぁー、そうかも!」
そう言ってリカは緑川に「もう一枚」と声をかけた。
つまらなさそうに地面を爪先でいじくっていた緑川は、顔を上げてちょっと生意気なつり目の上の眉を寄せて唇を尖らせた。
「わぁーかわいい!」
今度はリカではなく春奈が言った。
「緑川あんた、自分のかわいい顔わかってるやろ」とリカが眉を寄せて言いながら、構えた携帯を操作した。
「終わった?ねぇヒロト、見ろよこれ!」
緑川の言葉は前半はリカに、後半は少し離れて事の顛末を見守っていたヒロトに向けられていた。
「おれ、かわいいってさ」緑川が釣り上がった目を細めて笑いながら言った。
リカの携帯を覗き込んだヒロトは眉をしかめた。
「おれこの顔してる時のおまえ嫌いだよ。一度怒ったらしばらく機嫌悪いし、だいたい下らない理由だし」
ヒロトはお日さま園での生活を思い出しながら言った。この生意気な義弟は、ここでは後輩でありながら少しも敬語を使う気配はなかった。
そんな彼であるから、みんなで一緒に生活していてもちょっと生意気だったりわがままだったりする。
基本的に物欲がなく、悪く言えばほとんどの事象に無頓着で冷たいヒロトからすると、緑川が怒る内容は下らないと思うようなことばかりで、それ故に融通してやることが多い。
緑川が生意気な口調や態度の中にもヒロトを慕う素振りを見せる理由はこれによるのだが、ヒロトはもちろん、緑川自身も気付いていない。
「あはは、嫌われてるやん緑川!かわいい撮れてるし、ヒロトにもあげるわ!」
「あ、ヒロトさん待ち受けにして下さいよー!」
リカも春奈も、いつも緑川と仲が良いヒロトの予想外の反応におもしろがっていた。
「どうやって待ち受けにするの」と携帯を時計と連絡用にしか使わないヒロトが尋ねると、「わたしがやりますよー」と春奈がヒロトの携帯を持った。
リカと春奈が写真を転送し、待ち受けにまでしてくれた携帯を返してもらったヒロトは、小さい画面の中の緑川を見て眉を寄せた。

「なんだよぉーヒロトのバカ!」
その反応を見て毒づく緑川に、ヒロトは「怒ったおまえはおれに八つ当たりするから嫌いだよ」と呆れたように返した。
ヒロトが自分の携帯の中の怒った緑川と目の前の緑川を見比べると、緑川は携帯の中の彼とそっくり同じ顔をしてヒロトを見つめていた。
「これは八つ当たりじゃないですね」と春奈とリカが笑った。
作品名:無題 作家名:犬川ム