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花の冠

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「孫、見よ!」
「……どうしたんだこの大量の花……」
両手いっぱいに花を抱え、時に花びらをひらひらと舞い散らせるガラシャ。
その笑みは花が咲き零れるようなもので、日の光によく映えた。
無邪気なまでのその様子に孫市はやや困り果てながら、一輪ガラシャの腕から花を取る。
静かに吹くそよ風に揺られて今にもふわりと飛んでいきそうだ。
のんびり流浪の旅を続ける孫市。ガラシャと出会い、
大変彼女に気に入られ半ば強引に同行する事になったのはつい最近の事。
最初は鬱陶しい、ガキの面倒なんて……などと思っていたが、近頃になって彼女と
いるのも悪くないと思うようになった。
そういうわけでガラシャがついてくるのを黙認し、共にあちらこちらを周って様々な思いを共有しあっている。
そんな中、孫市が疲れたと言ってこの野原に腰を下ろした。それが数刻前。
天気も良ければ風も心地良い。草花の香りが良い具合に眠気を誘い、昼寝には持って来いの気候。
すぐに孫市は眠りに落ちた。
彼の眠りの早さにガラシャは驚きつつ、孫市が寝てしまった事に退屈を覚え、ひとり離れた場所に走っていった。
夢うつつの中それを見ながら孫市は完全に眠り。
そして目覚めた時、まだガラシャが帰って来ていない事に少しだけ不安を覚えたが、
それを掻き消すようにガラシャの元気な声が孫市の耳を貫いた。
おお、お帰り。と振り向けば、そこには花を抱えたガラシャがいた。そういう事だ。
「綺麗な花が沢山咲いておって、思わず摘んできたのじゃ!」
「……そんなに沢山どうすんだよ、持って行ったら枯れるぞ。生ける花瓶もねえってのに」
孫市のその言葉にガラシャがはっとする。
そしてみるみる顔がしょんぼりしたものへと変わった。
「お、おいどうしたんだよ」
「わらわとした事が迂闊であった……。生けられないという事を考えていなかったぞ……」
今にも泣きそうな表情になっていく。
ああめんどくさいお嬢ちゃんだ。
孫市はそう思いながら、ガラシャの頭を軽く撫でた。
「摘んできたもんはしゃあねえだろ」
「しかし……」
「ったく……お嬢ちゃん、それちょっと貸してみな」
小さな風呂敷を地面に広げ、それを指差しながら孫市が言う。
ここに置け、そういう事らしいと理解したガラシャは、何も言わずに言うとおりにした。
いくつかの花を見ながら、本当に綺麗なもんだと呟く。
それから一輪、また一輪と手にとっては茎を使って花をどんどん編みこんでいった。
その手際の良さにガラシャは思わず見惚れる。彼の雰囲気に似つかぬその作業。
女が……それも特に子供が得意とするであろう花で作られた冠。
それを今孫市が作ろうとしている。とても、意外だ。
やはり孫は凄いなと思いながらじっと孫市を見つめた。
「出来たぜ」
そうして出来たそれは、ガラシャの頭上に冠する。
赤や黄色、白、紫……様々な色どりの花で作られた冠は、ガラシャによく映える。
「流石俺。綺麗な作りだ」
孫市は孫市で、自身の手先の器用さを自画自賛した。
しかし確かにそれは見事な作りである。
だがあまりにも意外すぎた。ガラシャは頭上に載った冠を
上目遣いに見ながら何度も触り、何度も感嘆の声を上げている。
凄いのう、見事じゃのう、と同じ言葉が繰り返され、お天道様に負けぬくらいの笑みを浮かべ。
喜んでもらえたようで良かったと孫市も笑った。
「孫がこんなものを作れるとはびっくりじゃ!やはり孫は凄いのう!」
「だろ?」
「しかし何故作れるのじゃ?」
「俺の故郷にはお嬢ちゃんよりちっせえガキは沢山いるからな、そいつらの相手をしてりゃ、自然に身につくさ」
その言葉を聞いてガラシャは、孫市の故郷がどんなものかと気になった。
彼の故郷なのだ。きっと楽しくて賑やかなところに違いない。いつか一度行ってみたい。
そんな思い。
「俺も最初は全然出来なくてな、ガキどもに馬鹿にされたもんだ」
「子供達に馬鹿にされる孫か、それは是非とも見てみたかったのう」
「何だと?」
茶化すように笑えば、孫市も便乗して一緒に笑ってくれる。
とても楽しいひととき。
「よし、孫!わらわも孫に何か作ってやろうぞ!」
ガラシャはまだ沢山残っている花々を手に取ると、孫市に突きつけながら言った。
「別に俺はいらねえよ」
「そんな事言うでない!良いから待っておれ!」
有無を言わさずガラシャは作業を始める。
そういう強引なところは彼女らしい。
こうなった以上彼女を止める術はなく、孫市は仕方なくそれを見守る事にした。
ひとつひとつ、花をいたわり慈しむような手つき。
その様子から彼女は本当に花が好きなのであろう事が窺える。
次々編みこまれていく花は、とうとう小さな輪を作り上げた。
「冠にしちゃ小せえな?」
「冠ではない。孫、腕を貸してたもれ」
ああそういう事かと理解しながら、孫市は腕を差し出す。
案の定その小さな輪は孫市の手を通り、手首へと装着された。
腕に対しては少し大きいような気がする腕輪が孫市の手首で揺れる。
「わらわの腕輪とお揃いじゃ!」
言いながらガラシャは孫市のもう片方の腕にも花の腕輪を通し、自分の腕輪と孫市の腕輪とを見比べた。
片や精巧な作りで細工も見事なしっかりとした腕輪。
片や花で作られた、明日には枯れるであろう腕輪。
お揃い、などとは程遠いが、それでもふたりで共有出来る何かがそこにはある。
「ありがとよお嬢ちゃん。そんなお嬢ちゃんには……」
また孫市が花を手に取る。
少し時間をかけて作った花の輪は、冠よりもずっと大きいもの。
ガラシャの頭を通して首にかけてやれば、首飾りの出来上がりだ。
「俺のこいつとお揃い、ってか?」
孫市の首に下げられた八咫烏が輝いた。
「うむ、お揃いじゃの!」
孫市の顔も、ガラシャの顔も、大きく大きく輝いている。
こうやって笑いを分かち合う喜び。
喜びを共に感じられる喜び。
心の底からそれを実感しつつ、ふたりはいくらでも笑う。
これは何ものにも変えがたい、小さいけれど大きな、とても大切な時間。
それが互いを癒し、支え、励ます。
無意識の内にふたりの、友情は、ダチという関係は一層深まった。
これからも良いダチでいたい。同じ思いがふたりの間にはあった。

それから暫くして、ガラシャの案内により孫市は花畑へと連れて行かれた。
そこに咲き乱れる花に揃って見惚れ、時が経つのも忘れ気がつけば日が暮れており。
今夜はそこで野宿をする羽目になったが、ふたりとも特に後悔する様子も無く、寧ろまるで楽しんでいるかのように夜を迎えた。
星が瞬く夜空。浮かぶ月が花畑を昼間とは違う表情に変える。
「孫と一緒にこれを見られて良かったと思うぞ」
「ありがとよ。俺もお嬢ちゃんのおかげでこんな良い思い出来たから良かったぜ。たまにはこういうのもいいな」
「うむ。孫が喜んでくれたのなら、わらわはそれで、良い……」
徐々にガラシャの言葉に力が無くなっていき、とうとう彼女は頭を孫市の肩に預けて眠りに入ってしまった。
「……やれやれ、はしゃいだり眠ったり、忙しいお嬢ちゃんだな。だが本当にお前といると面白いよ」
どこの者かはわからぬが、良家の娘であろうガラシャと、いつまでもダチとしていられるわけはないだろう。
作品名:花の冠 作家名:梗乃