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甘いもの

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「官兵衛殿、はい。あーん」

眼前につきつけられた、甘い匂いのする三色団子。
それをじっと見つめながら官兵衛は、どうして今自分がそのような状況に置かれているのかを頭の中で整理していた。
その団子を持つのは満面の笑みというか何か含みのある笑顔を見せる半兵衛。
無邪気な風貌だがその中で何を考えているのかはいまいち理解しがたい半兵衛に、一体どういう思惑があるというのか。
官兵衛はいろいろと邪推せずにはいられなかった。
「ほら食べないの?官兵衛殿」
ずい、と更に団子を官兵衛の顔に近づける。
「いらぬ」
「遠慮しないでさ、はいあーん」
拒否すればする程半兵衛は調子に乗る。
承諾したらしたで余計調子に乗るだろうから、官兵衛はひたすら拒否し続けるしか出来なかった。
……そうだ。思い出した。
官兵衛は思う。それは四半刻ほど前の出来事であった。
秀吉からの頼みでふたりは外に出ていた。
本来は半兵衛にのみの頼みだったのだが、ここ数日全く外に出ようとしておらず、ただでさえ陰湿な雰囲気を醸し出している官兵衛が
更に陰湿になってしまう、とわざと的を外した気遣いを発揮させた半兵衛が無理矢理官兵衛も一緒に連れ出した。
まだ仕事が残っているから断る、と頑なに言う主張も聞いてもらえずに強引に引っ張り出された官兵衛。
いつもこの男は強引だと思いつつも、突っぱねる事は出来なかった。
「あんなに部屋の中にこもってちゃ、いつか官兵衛殿にかびが生えちゃうよ」
「生えぬ」
「凄く暗い性格になっちゃうよ?」
「元からだ」
「もう」
それでもやはり無理矢理連れ出された事には納得が行っていないらしく、半兵衛の言葉ひとつひとつに反論していく。
半兵衛の言葉も、根拠のないいい加減なものばかりなので、仕方ないと言えばそうなのだが。
「そんなんじゃあ駄目だって官兵衛殿ー。敵を作ってばっかじゃん」
「それで良い。むしろ私が敵を作って、それで卿に何か不都合でもあるとでも?」
「んー……」
こういう人だもんなあ官兵衛殿は、と思いながら半兵衛はため息を吐く。
だから俺がいないと駄目なんだよね、と言おうとしたのを飲み込んだ。

まあそんな相変わらずのやりとりを続けて秀吉の遣いを終え、帰路についている途中の事であった。
半兵衛が突然足を止める。そして官兵衛の着物の袖を引っ張った。
「寄り道しようよ、官兵衛殿」
などと言う半兵衛が指差す先にあるのは、甘味処。
やや寂れたそこは客の入りなどあまり良くない。
逆に言えばゆっくり休めると言う事だ。
「俺ちょっと疲れちゃったんだよねー。疲れた時には甘い物って言うじゃない?」
「…………」
官兵衛が顔を顰めた。
その表情だけで半兵衛は、私は早く帰りたいのだがと言っている事を読み取った。
だがそんな事半兵衛には関係ない。
「ね、行こうよ官兵衛殿」
半ば強引な物言い。
「……仕方が無い。付き合おう」
「やった」
それに言い返すのも正直疲れる、と思った官兵衛は、あっさりと半兵衛の誘いに乗った。
押しまくればその内官兵衛は折れる。半兵衛はその事をよく知っていた。
頑なだけど容易い男だ。しかしそれは、半兵衛に限る事。

そして今、こういう状況と言うわけである。

「私は食べるつもりなど無いし、あるにしても自分で食べられる」
「細かい事気にしてちゃ、また老けるよ官兵衛殿」
「卿が若作りすぎるのだ」
官兵衛の言うとおりだ。
傍から見れば明らかに官兵衛の方が年上に見えるのであろうが、こう見えて半兵衛の方がふたつも年上。
嘘のようだが、本当の事だ。
「ほーらー、食べなよ官兵衛殿ー」
「…………」
とうとう、と言うか案の定と言うか。
官兵衛は小さく口を開けて、串に刺さった団子を口に含んだ。
串の先端が顔を見せる。
「美味しい?」
「……」
「はっきり言いなよお、美味しいってさ」
無表情のまま団子を咀嚼する官兵衛。
全く美味そうに食べているようには見えぬが、どうやら半兵衛には美味いと思っているように見えるらしい。
まこと、傍からは理解しにくいふたりである。
そのまま半兵衛は串に残ったふたつの団子を口の中に放り込む。
「うん。美味しい。すみませーん、お団子もうひとさらー!」
半兵衛と官兵衛、あとはほんの数人しかおらぬ店の中。
暇そうに呆けている給仕に半兵衛は声をかけた。
「まだ食べる気か」
「当然」
「このままでは、秀吉様のもとに帰る頃には夕刻になっていそうだな」
「いいんじゃない。久々にゆっくりしようよ官兵衛殿」
「卿は毎日ゆっくりしている時間を取っているがな」
「官兵衛殿が、だよ」
団子の無くなった串を官兵衛の目の前に突きつける。
念を押すような言葉に、官兵衛は訝しげな表情を見せた。
「いつか身体壊しちゃわないか、心配なんだから俺」
「人の心配をする前に、自分の心配をした方が良いのではないか」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
全くの押し問答だ。
互いに一歩も引こうとしない。
「働きすぎなんだよ、官兵衛殿は」
先程注文した団子が運ばれてきた。
給仕にありがとう、と一言だけ言うと、半兵衛は即座にその団子を官兵衛の口に押し込む。
有無を言わさず。抵抗する間も与えずに、無理矢理。
官兵衛はと言えばまるで想定していたとでも言わんばかりに冷静にそれを受け止め、黙って団子を食べた。
「少しは休む事も考えてよね」
「……ならば明日にでも、卿と昼寝でもしてみるか?」
「良い提案だね。そうしよっか」
嬉しそうに半兵衛が笑った。
官兵衛はと言えば全く表情は崩しておらず。けれど半兵衛には、官兵衛が今どういう気持ちでいるのかよくわかっていた。
俺だけでも官兵衛殿の事わかってあげなくちゃね。
そんな思いが、半兵衛の中にはあった。


翌日。
よく晴れた昼下がりに、とてもよく日の当たる縁側で休む両兵衛の姿が多数の人間に目撃された。
正座をした官兵衛の膝に頭を預けぐっすり眠る半兵衛と、正座に加え半兵衛の重みもあると言うのにぐっすり寝入っている官兵衛の姿が。
誰もが、あれでゆっくり眠れるのかという疑問を抱いたが、当の両兵衛はそんな事も露知らず。
しっかり清々しい程に眠っていた。
それから度々、同じような光景が目撃されたとか。
半兵衛はともかくとして、官兵衛があのような……と驚く者が大半だったらしい。

「ね。休む事って大事でしょ?」
「……そうだな」
「わ。珍しい。素直」
「黙って寝ていろ」

暖かい日差しがふたりを包んでいた。
作品名:甘いもの 作家名:梗乃