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浮遊日和

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ある日は池袋の一角に作られた緑が茂る某公園の樹木の、よりによって高く細い枝に腰掛け困り果てた顔で。
また別の日には心なしか歪んで傾いた電柱の突起に掴まり、泣きそうな表情に遭遇する。

現代人には未病なんて病がお似合いだが、実際発症している人々にしてみれば可愛げのあるものなのだろう。
自分も大半が罹る頃、つまりは思春期に一時体験したので気持ちは幾ばかは通じているつもりである。宙に浮かぶという、とっくに懐かしい感覚の分類に入れたものに少々目を細めるが。シズちゃんが残念ながらもう居たので、重い周期では地獄を垣間見ていた。
経験者なら失敗談を必ず抱える中二病みたいで言いたくない名称の病。それに、あのこは重度で罹っている。

いい、絶対に下で受け止めてあげるから変な落ち方しないでよ?
出来るだけ優しめに声を作って掛ければ、きちんとピースが当て嵌まるように、若しくは慣れた感触を思わせながら腕に落ちてきた。
それでもうなじの付近で一呼吸を吐いて、安堵に羽毛程しかない体重を預けてくるけれど、これが稀に見る重度患者であるこのこには日常になっているのかもしれない。
適応力が強いなあ。羨ましむかは別であるが。


症状の初期では、微風でも吹かれると身体がよろめいてしまいます。自覚を持ちましょう。
悪化した場合には4、5センチ地面から浮いてしまいます。自分を振り返り、律することを心掛けましょう。
症状がこれ以上進行すると危険な状態となります。お近くの病院またはカウンセラーに相談しましょう。


病院の隅にて地味に掲示されている、この症状案内はそもそも大衆向けではない。ストレスが容易く溜まる世では、患者の数の方が圧倒的に少ないのだ。
隣軒どころか何県先かの遠距離に当たる病は、知識としては積もるが宙に浮かぶ経験はこれっぽっちもないのが一般に属する。



初期のお約束も守れていなさそうだなと腕の中のこを見遣った。不思議そうな眼に突き当たる。
取り敢えず新羅に専門家を紹介して貰ってから、将来大物になる予感のする中身をじっくり観察してみようか。
作品名:浮遊日和 作家名:じゃく