【ガンダム00】保護者の憂鬱
宇宙艦プトレマイオスを統べる若き責任者は、背中にかかるたっぷりとしたウェーブヘアを掻き上げると涼しげな視線をよこして微笑んだ。
「あなたたちをお呼び立てしたのもその件なんだけど」
「でしょうね」
スメラギ・李・ノリエガの前に立つのは、ガンダムマイスターとしてソレスタルビーイングに属する四名のうち年嵩の二名、すなわちロックオン・スフレトスとアレルヤ・ハプティズムである。スメラギの言葉に相槌を打ったのはアレルヤで、ロックオンはほんの僅かに首を傾げるに反応を留める。
同士二人に着席を促し、スメラギは薄暗いブリーフィングルームの細長いテーブルに肘をついた。しなやかな指が二本、宙で揺れる。
「宇宙での式典を妨害しようとするテロリスト連中の撃破、地上のAEUへの牽制及び戦力の把握。今回のミッションではどうしてもあなたたちを二チームに分けなければいけない」
あなたたち二人のことは全然心配してないの、と言い置いて、スメラギはちらりと苦笑した。
「少年たちのほうがね、ちょっと不安定でしょう? 刹那とティエリアをひとりずつ、あなたたちにフォローしてあげてほしいの」
「ミッションの成否より先にガキ共の心配をしろってことですか?」
「あら、鈍いのね」
力なく笑うロックオンへ、こちらは楽しげに肩を揺らし、スメラギが人さし指を向ける。
「どちらにせよ、あなたたちがコンビを組むことはありえないわ。だから自分のやり方と合う相方を選びなさいってこと」
彼らの乗機デュナメスとキュリオスはどちらかといえば仲間をフォローする側に向いている。
アタッカーとしての火力に不満があるというわけでもないのだが、年少組の操るエクシアやヴァーチェがそういう役に回ることが多い。これはどうやらパイロットの性格の問題であるようだ。
「僕はどちらと組んでも構いませんよ。……ああ、でもロックオンとティエリアでは遠距離に偏りすぎるのか。君は地上に降りるんだよな?」
「ん、ああ、そうか。じゃあ俺は刹那で」
「僕がティエリアとコンビを組むってことだね」
「あっさり決まって良かったわ。じゃあその方向で各フェイズの見直しに入るから、よろしく」
とびきり人工的な微笑を浮かべてさっさと腰を上げたスメラギが通り過ぎた瞬間、ロックオンは彼女のなびく髪から消しきれなかったアルコールの香りを拾ってたまらずに苦笑した。
不審とまではいかない、ごく淡い疑問を表情に浮かべたアレルヤに虚空のグラスを煽る真似をすると、聡い彼はすぐにロックオンと同じ表情を浮かべてスメラギの消えたドアを振り返る。ちょうど排気音とともに閉じてしまったそこを見つめたまま、アレルヤはゆっくりとかぶりを振った。
「気が重いな。ただでさえ初任務だってのに」
「ま、ティエリアは大丈夫だろ。むしろおまえが足引っ張るんじゃないのか」
「そうならないよう気をつけるよ。……君こそ暢気に構えてていいのか」
「ん?」
「刹那」
アレルヤの指摘にうわべの愛想笑いすらしない幼い無表情を脳裏に描き、ロックオンは額を掻いた。人形の貼りついたような笑顔のほうが彼よりよほど温かみがある。
テーブルに片肘を置き、アレルヤはどこか楽しげに目を細める。
「あいつは難しいと思うな。うん、苦労するんじゃないか」
年少組のふたりとも年齢の割に冷めたものの見かたをするが、ティエリアは訓練された兵士のそれとよく似ている。問題は刹那で、ティエリアに更に輪をかけて無口な上感情にもむらがあり、何を考えているのかよくわからない。
アレルヤが指摘したのもそこで、ロックオンからすれば苦笑うしかない。
「なんとかやっていくさ。チームだからな、俺たちは」
「格好いいな」
くすくすと笑ってアレルヤが立ち上がる。
「さて、それじゃあ相方との親交を深めに行くとするかな」
「大変だな、お父さん」
「お互いさまだ」
交わした苦笑は、一週間後に全世界に戦線布告をする武装組織の主力部隊のメンバーが浮かべるにはあまりにも平和すぎるものだった。
作品名:【ガンダム00】保護者の憂鬱 作家名:yama