お待ちかねの悪意
プロローグ 彼のいない世界
彼の存在を知る者は、誰も彼もが夢想する。
もし、彼がいなければ、と。
「なんておこがましい!」
それを彼は一笑に付す。
「俺のせいにする前に、ようく考えてごらんよ。こんな裏の世界に足を踏み入れておいて、どうして無事でいられるって? いつ陥れられ、暴力を振るわれ、殺されるかも分からない、こんなところで!」
彼は嘲笑する。
「……お前のせいだよ。お前が真っ当に生きて、こんな世界に関わらなければ、俺に会うことも無かった。そうだろう?」
彼は嘲笑する。
彼は嘲笑する。
例えば男。
例えば女。
誰もが必ず夢想する。
「自分から遮断機をくぐったんだ。電車に撥ねられても文句は言えないよね?」
例えば少年。
例えば少女。
誰もが必ず夢想する。
「俺がいなければ? 馬鹿言うんじゃない。俺がいようがいまいが、お前はここにいるじゃないか」
さて、そのほかは、――――――。