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あなたにはかなわない。

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 珍しく、プロイセンが仕事を手伝おうと言ってきたので、不安を感じつつも山のようにデスクに詰まれた書類の束に実際、二進も三進も…どこから手を付けていいのやら…正直、このまま投げ出してイタリアにまったりのんびり観光に行きたいと思ったが、月末にはEUの会合を控え、資料作りでそれどころではない…ので、致し方なくドイツは手伝ってもらうことにした。
 だが、既に現役を退き、数十年。自由人を気取って好き放題、この世の春を謳歌しているプロイセンに仕事を任せても大丈夫なのか…いや、あれでも元国家なのだから、大丈夫…だと思いたい。…悶々としながら、別室で仕事をこなしているであろうプロイセンを気にしつつ、ドイツはキーを叩く。レポートをどうにか纏め、部下に英訳を頼み、デスクを離れ、プロイセンのいる部屋のドアを叩いた。…が、それに返事はない。
(…まさか、寝てるんじゃないだろうな?)
家で散々だらけきった兄を目にしてきた。人の目を盗んでは逃げ出し、掃除をサボるひとだ。そして、それを悪びれもしない。今回は自分が言い出したことなのだから、居眠りしてたのなら叩き出して、夕飯は抜きだ!…ドイツはドアを開く。そして、ぽかんと口を開けた。

 プロイセンは起きていた。

「ちげぇ、それは右の山だ。間違えんな」
「はいっ」
「これ、目を通したが、文章だけだと解り辛ぇ。グラフがあればもっと解りやすいな」
「解りました。早速」
「おい、この数値、一桁間違ってるぜ」
「て、訂正します!」
「このレポートは良く書けてる。上司に上げても問題ないだろう。頑張ったな!」
「あ、有難うございます!!」

ぽかんとする程、プロイセンが格好いい。…いや、そんなはずはない。夢ではなかろうかとドイツは自分の頬を抓るが確かに痛い。夢ではないらしい。

プロイセンはドイツの部下に指示を出し、その傍らでレポートに目を通し、書類を仕分けて電話に出ては、指示を出す。てきぱきといつも以上に効率よく働いていく部下たちにドイツは言葉もない。
「いやはや、流石、国家殿の兄上殿ですな。仕事が良く出来る。お陰で半年分の案件が今日中に片付きそうな勢いで。今年は長いバカンスを楽しめそうですぞ」
古参の部下がドイツに声を掛ける。
「…いや、え?」
「既に来年の予算の案件の骨子が出来ましたしなぁ」
「ええっ?」
部下の言葉にドイツは大きく目を開く、好好爺とした部下はドイツの動揺を知るでもなく、にっこりと笑んだ。
「国家殿、どうぞ、お先に兄上殿と休憩に。長めに行かれても構いませんよ。作業の指示は頂いておりますので」
「…あ、ああ」
ドイツはこちらに気付きもせずに一心不乱に書類に目を通しサインをしては、次の山を片付けていくプロイセンに声を掛けた。

「に、兄さん」
「…お?!」

その声に、プロイセンは手を止め、顔を上げた。
「どうした?何か、あったか?」
「いや…。休憩にしないか?お昼がまだだろう?」
「…あー、もうそんな時間か。ちょっと待っててくれ。キリのいいとこまで終わらせる。ヨハン、この書類だが…」
何事を細かく指示を出し、それに頷いた部下の肩を叩き、プロイセンは人懐っこい顔で笑う。それに、嬉しそうに笑い返す部下が一礼して自分の席に戻っていくのにドイツの胸はしくりと軋んだ。
「…よし、こんなもんか」
ぐりぐりと首と肩を回しながら、プロイセンは腰を上げた。
「んじゃ、飯にすっか。エッダがこの近くにあるカフェのランチが美味いって言ってたから、そこ行こうぜ」
…いつの間に、我が部署紅一点の部下と仲良くなったのだ…じりっと胸を焼いた何かにドイツは顔を顰めた。それにプロイセンは首を傾ける。
「何だ、具合悪いのか?」
「…いや」
「そっか。なら、行こうぜ」
るんるんとした足取りで部屋を出るプロイセンの後をドイツは複雑な気持ちで追った。




「何、眉間に皺寄せてんだよ。悩み事か?お兄様に話してみろ」
「…いや、兄さんはやはり凄いなと…改めて、思ったところだ。…俺ではあんなにスムーズに部下を動かせない」
そう、凹んだし、部下に、兄の昔と代わらない有能ぶりに嫉妬してしまった自分にドイツは落ち込んで、溜息を吐いた。それに、プロイセンは顎を掻いた。
「…っーか、こりゃ、なんつーか経験だって。…ってか、お前んとこすげーいい部下ばかりだな。流石、お前が仕切ってるだけあるわ。飲み込み早くて、仕事が良く出来るし羨ましいぜ。…あっちにいたころは全部ひとりで…ザクセンも居たけど、使えなくってよ。俺が殆どやってたからな。たまにロシアの野郎が仕事更に持ち込むし…いや、お前んとこすげー楽だわ」
しみじみとそう言って、プロイセンはコーヒーを啜った。それをドイツは上目遣いに見やる。
「…いや、俺はその優秀な部下を使えてないんだ…」
「何、落ち込んでんだよ。お前、結構慕われてるぞ。あいつらがキビキビ働くのは、お前に休みを取らせてやりたいからなんだぜ」
「え?」
「お前の下で部下として働けて、国民としても、勤勉で真面目なお前が国であることが誇らしいって言ったたぞ。俺様も鼻が高いぜ。…んで、ここ最近は休みも取らずに働いてるからって心配してたぜ」
「…な」
ドイツはぽかんとプロイセンの顔を見やった。
「…ってか、あいつらが良く働いてくれたお陰で、大分片付いたからな。今度こそ、イタリアちゃん家にふたりで遊びにいけるよな?俺、イタリアちゃん家のお兄様のところにも行きたいぜ!」
嬉々とした表情でプロイセンはコーヒーとサンドイッチの乗ったトレイを脇に避けると旅行雑誌を取り出した。
「岩窟教会とかよ、ポンペイに一度行ってみたいって思ってたんだ。カプリ島行って、青の洞窟見て、美味いもんいっぱい食うぞ!あ、イタリアちゃんのお兄様、観光案内してくんねぇかなぁ?頼んでみっか!」
既に心はイタリアである。カラーで観光地を写したページを捲るプロイセンに、ドイツはああと頷く。去年のバカンス、ドイツの仕事の都合でどこにも行けなかったのだ。それにプロイセンはがっかりしたように肩を落としたが、文句ひとつ(言われるだろうと思ったが)、言わなかった。

「お前が一月ぐらい休み取れるように、俺様、頑張るからな!」

ああ、その為か。プロイセンの滅多にないやる気は自分に休みを取らせる為らしい。その為に、自分も仕事をプロイセン以上に頑張らなくては。



改めて、兄さんには敵わないと認識するドイツだった。






≫こんなの、プーじゃない!!
作品名:あなたにはかなわない。 作家名:冬故