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言葉でもって 俺は君と交差する

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いつかのはなし 俺の考えとお前の考え ぴたりと合わさるその日まで

津軽の情報処理速度は著しく遅い。元々歌唱専用に作られたものであるが故、歌唱力はあってもその他の機能を充実させることは出来なかったのである。元々思考回路という機能を搭載されていないサイケとの会話はともかくとして、津軽は歌唱力を多少削られながらも会話する知能方面に特化した学天との会話が、少しだけいつも歯がゆかった。

「津軽さん、こんにちは!」
「・・・ ・・・ ああ 」
こんに ちは 津軽はたどたどしく言葉を発し、学天が笑いながら津軽を見上げている事実に目を細めた。歌唱に特化する余り、その他の機能がどこかおざなりになってしまっている津軽が 鈍い回路を働かせようやく行えた返事を、学天は心底うれしそうに笑って受け止める。歯がゆくてたまらなくなり、視線を下げてしまった津軽へ、学天は不思議そうに声を上げる。
「どうかしましたか? ・・・あ、もしかして 」
ウイルスとか、不安げに呟く学天へ、津軽はふるふると首を振る。言葉が出てこない代わりのように、津軽は態度で学天へ伝えようと試みては、自分に苛立ち終わってしまう。さらりと衣擦れの音を立てながら着物をはおり直し、津軽の視線は困ったように動き続けた。津軽の戸惑いには気付かない様子で学天は笑い、良かったと声を上げた。
「津軽さん、歌 歌ってください」
学天はにこりと笑いながら座り込み、津軽へ曲を強請った。煙管を咥えていた津軽は学天の表情を見定め、低く巻き舌気味に一曲披露する。ソフトの言葉は音符となり、パソコン内にアイコンとして出没しては消えていく。デリートされてるみたい、学天は目を細めながら津軽の声が生まれ消えていくまでの時間、何も言うことなく津軽を見続けた。歌い終わった津軽は最後に飛び出た音符を視線で追いかけ、それが学天の目の前で消えた風景を見つめ続けた。瞬間交わった視線に津軽が目をそらすと、学天はぱちぱちと瞬きをして 津軽さん と声を上げる。
「素敵でした」
「・・・ ・・・ ありが と 」
ほらまた自分は、津軽は小さく自分に恥ずかしさを覚え、視線を彷徨わせ続ける。素直な賛辞にすらすぐに言葉を返せず、音楽に乗った言葉でしかすらすらと発音もできない。学天の発言にすぐさま答えられたなら、それは素敵なことであると思うのに。津軽の悲しみに、学天は気付く様子もなく ただ眉を少しだけしかめて津軽の手を握った。体温という概念の無い二人はただ自分ではない何かが触れ合っていると言う漠然とした感覚のまま黙りこむ。無言のまま見つめ合う二者の沈黙を破ったのは、ぎこちなく口を開いた津軽だった。
「・・・ ・・・ ・・・ うれしい」
津軽の、大分間のあいた言葉に、学天はふわりと花が咲くように笑った。津軽は学天の笑顔の意図が掴めず、ぱちりと瞬きを行う。首を傾げて疑問を示した津軽へ、学天は笑ったまま、だって と声を上げた。
「津軽さんの声が 僕の回路の中で響いて、嬉しいのは僕だったんです。同じ感情を持てて、幸せです」
僕たち、分かり合う手段は思ったよりも、持ってます。帝人の微笑みに、津軽はやがて言葉を呑みこみ じわじわと広がる愛おしさに顔をしかめた。学天は津軽の表情の変化に微笑み続ける。
「・・・ ・・・ ・・・ おれは、いやだ」
もっと、津軽は呟き、回路がショートした感覚に黙りこんだ。カスタマイズされていない会話機能が津軽の感情をそのまま声へ加工することを拒絶する。黙った津軽へ、学天は笑いながらも首を傾げた。津軽の言葉を待つ学天に苛立った様子はなく、津軽はそれこそ嫌に思えて懸命に言葉を探した。
「・・・ ・・・ おれは おまえと もっと 」
津軽は自分に組み込まれた回路の所々が焼き切れる感覚を味わいながら瞬きをする。言葉が見つからない、届けたい感情ばかりが溢れて言葉になりたくないと津軽の中で蠢いている。津軽は喉を押さえながら言葉という形になりたがらない感情を思い、首を傾げた。もっと、考えた末の懇願に、学天はサングラスで隠している目を丸めた。
「・・・ ・・・ ・・・ すきだ」
津軽はようやく、最も逃げ回り続けた感情を言葉として示す。学天は津軽の言葉に微笑む。全てを許された感覚に、津軽はふにゃりと笑顔になりきれていない笑みを浮かべた。