おむかえです。
「えっ、ウソ! 羽島幽平!?」
「なんでこんなとこに!?」
「ロケか何かかなあ…」
終礼の挨拶も済み、下校支度を整えつつある帝人の耳に女子の声が飛び込んできた。
その会話の内容から察するに自分に関係することだろうと思い、そっと彼女たちの隙間から校門の辺りを窺うと既にそこは人だかりができている。
その様子から、近年カーミラ才蔵など様々な映画で人気を博している羽島幽平ーーつまりは帝人の兄である平和島幽が来ているということだと確信を得てしまった。
自分に用があるのか、それともこの近辺でロケがあるのか。
朝家を出る際には何も言っていなかったのだから前者の方が可能性としては高いのだろう。
しかしあの人混みを切り抜けて兄に会えるかと言えば、それは非常に難しそうであった。
「うーん、どうしようかな…」
「みーっかどーっ!!」
「うわっ」
考え込もうとしたところを背中から大きな衝撃が襲い、帝人は思い切り机の上に両手を付いて倒れ込まないよう力を込めた。
この脳天気な……いや、明るい声は幼馴染みの少年しかいない。
「もーっ、正臣いきなり抱きつくのやめてって言ってるでしょ…」
「悪かったもうしない俺のレディたちに誓って約束する! ところでみっかどー、お前もスミに置けないなあ」
危ないよ、と言うや否や少年は金髪を揺らしながら窓の外を指差した。
「幽さん、来てんだろ?」
教室にはまだ生徒が残っているため、声は抑えられている。
そんな親友の心遣いに感謝しながら、帝人も声を潜めて答える。
「うん、何の用事かは分かんないんだけど…どうしたら良いと思う? 正臣」
「どうって……お前まさかあの中まで会いに行く気か!?」
「だって…用があるなら聞かなきゃいけないし、」
「ばっかお前、何のためにケータイ持ってんだよ!」
「あ、そっか」
おもむろに携帯をポケットから取り出すと、新着メールが来ていないか確かめる。
幽からのメールが届いていないことを確認すると、帝人は急いで兄へ宛てたメールを打ち始めた。
「っていうか、お前らメールしたりしないの?」
兄弟の間でさ、と続ける正臣に帝人は視線は画面に向けたまま答える。
「必要最低限かなあ。話があれば家で話すし、静に…兄さんは帰りの時間とかメールで送ってくれるけど」
「ふーん、そんなもんなのか」
「兄弟ってそんなものじゃないの? …よし、できた、っと」
「送った?」
「うん。あ、返事来た」
「早!」
「えーとね、『今日は一緒に帰るから支度できたら降りておいで』って」
「あの中をかき分けて行くのは決定事項なワケね」
「そうみたい」
大変そうだね、と笑う帝人に正臣も苦笑をこぼすしかない。
「じゃあ、いっちょ行きますか!」
「うん!」
女子の波をくぐり抜けるべく気合いを入れた二人は、バッグを肩にかけると急いで教室から飛び出した。