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はとさぶろう
はとさぶろう
novelistID. 955
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(まだ考え中)

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赤銅の塊が、アルケミストの目の前で吹き飛ばされた。
少しの間を置いて、どうっと重い音が響く。視線だけで音の方向を見れば、そこには、真っ白な雪の上、鎧と同じ赤い髪をしたソードマンの男が仰向けに倒れている。右手には、彼の得物である斧がしっかりと握られているが、その手は動こうとはしなかった。視界の端を、血相を変えたメディックの女性が走っていく。衝撃に舞い上がった雪の欠片が、彼の浅黒い頬の上に積もるのを見ながら、アルケミストは小さく舌打ちした。
動かないソードマンから視線を逸らすように、アルケミストはひとつ息を吐いて、自らの正面へと向き直る。雪の降り積もった大地の上、アルケミストの視界を塞ぐように立っているのは、通称「水辺の処刑者」と呼ばれている、大きな蟹の化け物だった。ソードマンを一撃のもとに殴り飛ばした鋏を、威嚇するように天に掲げ、真っ直ぐにアルケミストを見据えている。
次の瞬間、大きな鋏が、アルケミストの脳天を直撃するように振り下ろされた。
だが、重たい一撃がアルケミストを叩き潰すよりも早く、鋏の付け根に鋭い矢が突き刺さった。巨大な蟹の動きが、一瞬止まった。アルケミストの隣で、レンジャーの青年が弓を構えていた。
「援護する!」
澄んだ女性の声が響く。水辺の処刑者とアルケミストの間に、盾を構えたパラディンが入り込んだ。艶やかな金色の髪が、雪の照り返しを受けて輝く。
その役割は、いつもならば、あの赤い髪のソードマンであるはずなのに。
「頼む」
アルケミストは短く返すと、アタノールに覆われた右手を化け物蟹の腹目掛けて掲げた。
一気に温度を上げた溶解炉に、黄色い鉱石のような触媒を放り込む。ぐん、と腕に熱と共に鈍い振動が伝わる。アタノールの出力部が光り始める。必要な触媒の量は最初から計算してあった。後は温度を間違えないだけだ。アタノールの唸り声と、腕に伝わる熱から、アルケミストは温度を概算する。左手のアタノールを添えることで、細かい温度の調整を行う。求めている温度に近付いていることを推測すると、彼は真っ直ぐに蟹の化け物を見やった。
水辺の処刑者が鋏を振る。その一撃は、アルケミストの前で仁王立ちになったパラディンの盾に弾かれた。防ぎきれなかった風圧で、アルケミストの足元が揺れる。だが、彼は化け物から狙いを逸らすことはなかった。
「消し飛べ!」
アルケミストの声と共に、アタノールの出力部から、彼の髪と同じ眩い金色の雷が飛び出した。ぐにゃりと伸びた雷は、鋏を振り下ろした水辺の処刑者の腹を、轟音と共に真っ直ぐにぶち抜いた。
雪原の上に、一瞬の静寂が広がる。それを破ったのは、腹に大きな風穴を開けられた処刑者が、大地に倒れ込む音だった。
ソードマンが叩き付けられた時とは比べ物にならないほどの、おびただしい量の雪の埃が舞い上がる。まだ熱を持ったままのアタノールを下ろして、アルケミストは化け物の死骸に背を向けた。
視線の先にあるのは、未だ動かないソードマンと、彼を介抱しようとしているメディックだ。
必死になって声を掛け、ソードマンの意識を呼び戻そうとしているメディックの顔が、不意に凍りついた。
「脈が、ない」
静かな声。だが、雪よりも白くなった彼女の顔が、事態がどれほど緊迫しているのかをアルケミストに告げている。
「鎧を外せ!」
反射的に、アルケミストはそう叫んでいた。驚いたようにメディックが顔を上げたが、すぐに言われたとおり、ソードマンの鎧を外しに掛かった。
倒れているソードマンの横に、アルケミストは膝をつく。雪の冷たさが伝わってくるが、構う暇などなかった。
右手のアタノールの出力を極限まで下げ、排気口を全開にする。取り出した黄色の触媒を、雪の上に放り出し、斧を握ったままのソードマンの右手を取る。かなりの重量に難儀しながらも、アルケミストはその斧で、触媒を粉々に砕いた。
必要な触媒量は、目分量で考えるしかない。手に取った触媒の欠片を、祈るような気持ちでアタノールに放り込む。想定されていないほどの少量であったせいか、アタノールからは、今まで聞いたことのない、不気味なまでに低い音が聞こえてきた。温度の上がり方が随分と早い気がする。理論上では出来るはずだが、こんなこと、今まで試したことなんてなかった。
それでも、やるしかないのだと、アルケミストは自らに言い聞かせる。
「離れろ!」
アルケミストが叫ぶと、ソードマンの胸当てを外したメディックが、ぱっとその場から離れた。はっきりとした不安の浮かぶ緑の瞳が、アルケミストを見つめている。
戻ってこい。
アルケミストは小さく呟いて、金色に輝くアタノールの出力口を、分厚いアンダーシャツに覆われたソードマンの胸に押しつけた。
バン、という衝撃音と共に、ソードマンの体が跳ね上がった。
作品名:(まだ考え中) 作家名:はとさぶろう