初恋は実らない
きっかけは、望美のこの言葉だった。
「そうなのかッ！？」
ある者は凄まじい衝撃に青ざめ。
「いえ、ただの迷信ですよ九郎さん。根拠はありません」
ある者は冷静に否定し。
「そ、そうなの？…そうだよね、人の不幸を望んじゃいけないよね…」
ある者は肯定したい自分に凹み。
「…そうだったのか…」
ある者は。
「どうする、ヒノエ…？」
心底心配そうな顔で、ヒノエを見やったのだった。
「な、何でそこで俺に振るんだよ、敦盛！」
ぎょっとするヒノエに、敦盛はえっ、と目を見開く。
「何故って――」
ちら、と目を動かしそうになる敦盛に、ギャーと飛びつく。
「え、何ですか？何の話、ヒノエくん？」
「何でもない！望美、気にするな！！」
らしくなく慌てた様子のヒノエ。
「おやおや、僕のことですか？」
「何がだよ！んなワケないだろ！？」
脈絡なく挟まれた弁慶のセリフを、ヒノエは叫ぶように否定した。
「何だー？何騒いでんだ」
「将臣！！」
ヒョイ、と顔を覗かせた将臣に、九郎が駆け寄る。
「大変だ将臣！初恋は実らないんだと望美が…！！」
「だからそれは迷信なんですよ！」
「…そうだよね…」
「…はぁ？」
青ざめる者、否定する者、凹む者。
そのうち青ざめる者にドシーンと体当たりかまされつつ、将臣は眉を寄せた。
「――ヒノ」
「敦盛は黙っててくれないかな！どうするって訊かれても困るから！！」
再びパシーン！と敦盛の口を塞ぎ、ヒノエが声を震わせつつ言う。
「あはは、じゃあやっぱり僕ですね」
「だから何がだよ！アンタも黙ってろ！！」
「あー、何が何だかわからねぇんだけど」
弁慶とヒノエのやりとりを横目で見つつ、将臣が口を開く。
「将臣…！だから大変なんだ！初恋は実らないんだ、どうしよう！！」
「初恋ィ？」
ああ、と天井を見上げる。
「そういやそんなの流行ったっけな」
「な！何故そんなに冷静なんだ、将臣！？初恋は実らないんだぞ！？」
「あん？…あー、まあな。そういや俺もそうなるか」
あ、と望美が声をあげる。
「そっか、あのお姉さんだったっけ？」
「お姉さん？」
朔が首を傾げ、望美はうんとうなずく。
「まだちっちゃかった頃だけど、夕方になると家の前をキレイな女の人が通ってたんだよね。こう、胸がおっきくてボンキュッボーンみたいな」
「俺は兄さんのあの趣味は理解できなかったね。それに初恋っていったって、兄さんは二階から『いい女～』って眺めてただけじゃないか」
「あ？初恋ってそんなもんだろ」
「ま…将臣…」
絶望の淵からの呼び声に、将臣は九郎を振り返る。
カカッ！と九郎の背後に稲妻が見えた気がして、譲は眼鏡を押さえ望美は目をしばたかせた。
ＢＧＭがつくとしたら、ベートーベン作曲・運命。
九郎は青ざめるというよりももはや真っ白と言って差し支えない顔になっている。
ふらり、とよろめいて。
「もしかして…お前…、俺が初恋じゃ、ないのか…？」
（…お前、初恋なのか）
場の全員が、同時に思った。
[続かない]
ヒノエの初恋が弁慶だったら（朱雀カプ的に、とても）面白いよね！という話。
リズ先生と白龍が出せなかったのが心残り。