二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

予感

INDEX|1ページ/1ページ|

 
常春の聖地。
晴れ渡る空。
加速するエンジン。

ぐんぐん上昇して――

ザアッと森の上を駆け抜けて、ランディはその爽快さに思いっきり叫びだしたくなる。
ゼフェルの腰に腕を回すことでそれを抑えて、爆風に負けないよう耳元で大声を出した。
「なあ!今日はルヴァ様と約束があったんじゃないのかーっ?」
ゼフェルはチラッと後ろを振り返ってから、怒鳴るように言葉を返す。
「あー、それは今度にしてもらったんだよ!」
「…逃げたんだな」
全く悪びれない即答っぷりに、ランディはかえって疑わしげな目を向けた。
「何か言ったかー?」
ぼそりとつぶやいた言葉は聞こえなかったようで、小さく肩をすくめる。
まあゼフェルがエアバイクで自分を呼びに来た時点で、だいたい想像はついていたのだが。
そう考えれば、その上で誘いに乗った自分も同罪かなとランディは苦笑した。
「…何でもない!」

始まりの予感。
何かが起こりそうな、そんな気がする。

こんな日はじっとしてなんていられなくて、2人で風を切る。
空を飛ぶ。

まるで鳥のように、エアバイクが駆けた。


ザッ、と草を巻き上げて着地する。
光の館の近く、小高い丘の上に2人はたどりついた。
ここは聖地の中で1番空に近い場所で、ランディもよくロッククライミングをしに来る。
全身の力を使って登りきって、ここから聖地を見下ろすのがいいのだ。
それはジュリアスたちがよく遠乗りに来ることからもわかる。
ランディは切り立った断崖に立ち、大きく息を吸い込んだ。
朗らかな日差し、爽やかな風。
活気に満ちた世界が眼下に広がっている。

「――そういや」
背後からゼフェルの声がしたので、ランディは首だけめぐらせてそちらを見やった。
「え?」
「いや、お前さっき本読んでただろ?」
ゼフェルはエアバイクにもたれ、ペットボトルの水をあおりながら続ける。
「横に何冊か積んでたしよー…何の絵本だ?」
「な!絵本って決め付けたな!?」
「違うのかよ」
ニヤニヤ笑うその言い草にカチンときて、ランディはエアバイクの傍まで戻る。
「違うに決まってるだろ!あれは列記とした、ちゃんとした本だ!」
「へー、そー」
「うわ!自分から訊いといて何だよその返事は!」
だってよォ。
ゼフェルは半分呆れながら、もうひと口水を飲む。
「んな頭悪そーな答え返されるんじゃ、ロクでもねぇと思うだろ…」
「頭悪いとか言うな!」
やれ単純だピーマンだと言われ続けて頭にくる部分があったのか、ランディはゼフェルが予想していたよりも数割本気で怒り出した。
ゼフェルは片眉を上げる。
「…んじゃ、一体何の本読んでたんだ?」
内容によっちゃ頭ハタくぞと、ペットボトルを弄びながらゼフェルが訊いた。
それに対してランディは胸を張り、自信満々にゼフェルを見据えて。

「宇宙生成学の本さ!」

思わずあんぐりと、口を開けてしまった。
「は、何…?」
「だから、宇宙生成学。王立研究院発行の論文をまとめたもので、ルヴァ様が勧めてくれたんだ」
王立研究院。
そう聞いて、ランディの言葉が冗談ではないと知る。
では何か。
あの脳みそスカスカのお天気頭、単純路線一直線のランディ野郎が宇宙生成学に興味を持って、挙句ルヴァに本を借りて自主学習に励んでいたというのか!?
「……」
どうだ、と誇らしげな顔で立っているランディを見つめて、ゼフェルは真剣につぶやいた。
「…宇宙、滅びるんじゃねーだろーな…」

げしっ、と奇妙な音が丘に響いた。


「読んでたのは、あのロキシーさんの論文なんだ」
痛ェとわめきながら後頭部を撫でるゼフェルに背を向けて、ランディは語る。
「ああ…あのエルンストの親友か」
「そう。あの人宇宙生成学を専門に扱ってるんだって。以前エルンストさんから聞いて、ちょっと興味あったんだよな。そしたらルヴァ様が、これは面白いって言うからさ」
へェ、とゼフェルは曖昧な相槌を打つ。
「正直、難しそうだと思って敬遠してたんだけど。でも読んでみたら意外と!」
「…面白かったんだ?」
「ああ!多分あれはロキシーさんの文章力なんだろうけど、言葉もそんなに難しくなくて、これが論文?って思うくらいわかりやすい本だった」
ロキシー。
あの皇帝の一件で少々言葉を交わしたくらいの付き合いだが、それでもかなり優秀な研究員であることは一目瞭然だった。
人をくったような態度がゼフェルのカンに触ったものの、エルンストが信頼するのは理解できて。
確かにあの彼の論文なら、誰が読んでも面白いものなのかもしれない。
「…待てよ、てことは」
「ん?」
ジロリとゼフェルがランディを睨む。
「え?何?」
ぺし、と叩かれた後頭部を押さえて。
「…誰が読んでも面白いなら、んな威張れることじゃないじゃねーか」
「……」

一瞬の間。
ぶん、とゼフェルが拳を振り回したが、それより数瞬早くランディが飛びのいていた。


「あとは、ハンググライダーの本とか」
結局返す拳で殴られて額を押さえたランディが、しぶしぶ話を続ける。
「ハンググライダー?前も見てたな、確か」
「あ、よく覚えてるな!そうなんだよ、ちょっと空飛びたくってさ」
へへ~とはにかむように笑うランディを、ゼフェルは訝しげに眉を顰めて見やる。
「…空なら今日だって飛んだじゃねーか」
面白くなさそうなゼフェルに、ランディは首を傾げた。
「え、ああ…それはそうなんだけどさ。でもホラ、俺が運転できるわけじゃないだろ?」

風に乗って、先を読んで、決して重力に逆らわずに空を滑る。
自分の意のままに滑空して、それはまるで背に羽が生えたように。

「…ふーん」
自分とは異なる手段で空を飛びたがる彼を、ゼフェルは興味なさそうに見つめる。

それでも根底にあるものは、ただ空への羨望だ。
それを機械という身に馴染む物で成した自分と、それとは別の物で成そうとする彼と。
見つめる先が同じだということに、ゼフェルはちょっと照れ笑いを浮かべた。

「ま、組み立てる時は手伝ってやるよ」
「ああ、よろしく!」
フイっと顔を背けながら言うゼフェルに、ランディも笑顔を浮かべて。


見上げた空を、羽を広げた影が通り過ぎていった。


[終]
作品名:予感 作家名:秋月倫