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勝てない。

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   勝てない。






息があがる。
浅い呼吸を繰り返す。
長距離を走るランナーみたいに。
心臓がどくどくと脈打つ。
声が漏れる。
かすれて、鼻から抜けるような、みっともない声。
ふ、と影になって見え辛い、至近距離からの笑う息。
恥ずかしい。
でも、止まらない。
ぎゅうと目をつぶる。
腕を回して、力を入れすぎないように、抱きしめる。
顔を見えなくする。
耳に息がかかる。
名前を呼ばれる。
「静雄」
この人の声は、なんか不思議だ。
たとえば雑踏で、色んなノイズの中で、それだけが不意にクリアに聞こえるみたいな。
プールから上がった時の音みたいな。
音の質が、格段に上がったヘッドフォンみたいな。
頭に直接響く。
「目ぇ開けて、キスしろよ」
耳をくすぐるように、唇で撫でられる。
そこから顎へと。
「な、難易度、高いっす」
「ええー」
ちゅ、と顎から下唇へ。
唇を挟むようにキスされる。
目は開けられない。
でもこの人はきっと見ている。
見ながら、触れている。
見られている。
恥ずかしいし、怖い。
「俺の顔、見るの嫌?」
「んなわけっ」
あ。
「そう?よかった」
開けてしまった。
トムさんの顔。
近すぎて、また心臓が跳ね上がる。
「…わざと、そういう言い方しますよね、トムさん」
思ってもないような。
簡単に引っかかる俺も俺だけど。
「んなことねぇよ。俺だって不安になるさ。静雄のやつ、早く終われとか思ってんじゃねぇの、とか。我慢してるだけで気持ちよくないんじゃねぇの、とか」
「おも…ってませんし!そんなこと!気持ちい、ですよ。って、だから、そういうのがわざと、でしょ」
「半分は本気だけどなー。だからキスしろよ」
「だからの意味がわかりませんっ」
「俺を、安心させて」
「……っずるい言い方!」
まだ間近にある顔。
大人で、余裕のある、男の顔で、トムさんが笑って誘う。
首にからませた腕をほどいて、頬を触る。
にぃ、とトムさんが嬉しそうに笑う。
ああ、くそ、なんでこんな格好いいんだこの人!
悔しい。
睨みつける。
唇を指で触る。
それから、やっぱり、直前に目は閉じてしまった。

ああ、ほら。
やっぱり勝てない。


作品名:勝てない。 作家名:かなや