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何と美しきこの景色

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ああ、この世界はなんて、なんて。



本当にうつくしいものは、ごくわずかしか存在しない。
それこそ人が一生かけても見ることさえ叶わないくらい、うつくしいものは少ない。
世界はひどく汚くて、だからこそ偉大で、だからこそうつくしいものは希少なんだ。
だけど俺はそのうつくしいものを、きっと手にしてみせる。
それこそ一生かけてでも。

…そう、思ってた。
君と出逢うまでは。


「ええ、あのW字型の並びがカシオペア座ですね。北の空は明るく目立つ星が少ないので見つけやすいでしょう?」
テラスから空を見上げて、うきうきとした様子でルヴァが話しかけてくる。
オスカーも首を上向けたまま、彼の指先を追うようにして次の星を探した。
「てことは…、あれが北極星か?」
「ええ、今ちょうどあの木の真上あたりに光っている星ですね。あれが北極星、キタノヒトツボシだとかポラリスと呼ばれることもあったようですねー」
ふーん、とオスカーがうなずくと、ルヴァもこくこくとうなずいて話を続ける。
「ポラリスとは『動かない星』という意味でして、そこから派生してある地域では人生の生き甲斐や目標の事をポラリスと言ったりもしていたそうです」
「へぇ…まあ確かに導きの星だよな。目標が揺るがないようにってことなんだろうが」
「そうですねぇ」
ルヴァはにこにこと穏やかに笑いながら、カップのお茶をひと口飲んだ。
オスカーはグラスの中のワインを、ゆらりと波打たせてみる。

およそ真夜中にすることではないという、自覚はあった。
自分はともかくルヴァの立ち居振る舞いはまるで昼下がりのお茶会だ。
テラスに白いテーブルをはさんで腰掛け、お茶を飲みつつ夜空を眺める。
2人とも眠くなったらベッドへいってそのまま眠る。
眠くならなければ、このまま夜明けまで起きて過ごすこともあった。
想いが通じ合ってしばらく経つ、いわゆる恋人同士の夜の過ごし方としては甚だ健全すぎる。
まさか自分がこんな夜の過ごし方をするようになるなんて、オスカーは予想もしていなかった。
彼と出逢うまでは。

炎の映える夜こそ彼の最も活き活きとする世界。
根っからのフェミニスト気質に甘いマスクが加わって、引く手あまたの女性たちと過ごす夜はいつも熱く激しく、それこそ炎のようなものだった。
それが。

「あー、私はいつも思うんですけどねぇ、夜空の星々をつなげてひとつの星座を作り上げるなんてかなり面白い発想だったんじゃないでしょうかね~?」
「うん?」
「だってそうじゃないですか、我々にとっては星といえば星座ですけどね、あの頃の人々にとって星は闇の中に浮かぶ光の点でしかなかったんじゃないかって思いませんか?」
耳ざわりのいい彼の声が、静かな夜の空気に溶けていく。
それらはたぶん他愛のない、きっといつでもできるような世間話の一種。
「あれとあれをつなげて何かの姿にしようだなんて、考えた人はすごいなって思うんですよ~」
「なるほど。確かにそうかもしれないな」

こんなに穏やかな夜があるなんて、思いもよらなかった。
こんな夜の過ごし方を、自分が心地いいと思えるなんて。

「こうして見上げても星々はただの点ですけど、星座という目で見れば大きなキャンバスになる。それは昼間にはできない、夜だけの芸術だと言えませんかー?」

ただ彼の話を聞くだけのことが何故か、楽しいなんて。
まるで知識欲が芽生えたばかりの子供みたいだ。

「ああ…そういえば昼の空も夜の空も同じ宇宙を透かしてるってのに、全く違うもののように見えるってのは不思議だな」
ふとそんな事を考えて、そのまま口に出してみた。
するとルヴァはぽかんとした顔をして、思わずといった風にこちらをのぞきこんだ。
なにかおかしなことを言っただろうか。
一瞬背筋がドキリとしたが、それと同時にルヴァがにっこりと笑ったのでそうではないと察する。
「ええ!まったくその通りですねぇ!」
満面の笑みを浮かべて、ルヴァは大いにうなずいた。
「昼間の空には太陽と雲がありますし、まさか同じものだなんて思わないですよね~。古代天文学では惑星の自転という発想は皆無といってもいいくらいで、昼という名の空と夜という名の空が交互に空を回っていると考えられていたようですよ」
「太陽は昼の空に、夜の空には月と星が描かれてるってわけか」
オスカーはそう言って、ワインを喉に流し込む。
ルヴァはふっと空を見上げた。
「そうですねぇ…でも月も星も、昼間だってそこにあるんですよねー」
つられるように空を見上げていると、ルヴァからそんな言葉が吐き出された。

昼の月。
一瞬わからなかったが、すぐに何のことか浮かんできた。

「ああ、そういえば白い月が浮かんでるよな」
「そうですねー、それは十三夜前後の上弦の月のことですかねー。昼に顔を出していて、日没したらすぐに沈んでしまう月です。でも月だけじゃなくて、星もちゃんとそこにあるんですよ」
「星?」
「ええ、真昼の星です」
ルヴァはそう言うと、スッと空を指した。
「この宇宙には王立研究院でも把握しきれないほどたくさんの星が浮かんでいます。中にはここからは見えないものもそれこそたくさんありますが、見える星だって、昼間は太陽の光が強すぎて見えていないんですよねぇ」

きらきらと、瞬く星たち。
日の沈んだ夜こそ出番とばかりに輝いているけれど、本当は昼間でもそこにあるのだ。

「不思議だと思いませんか、オスカー?宇宙はこの深い闇色をしていますけど、昼間太陽が出ている間は青く見えるんですよ。おまけに日の出と日没の際は赤く染まりさえするんです!」
意気込んでそう言って、ルヴァはオスカーを振り仰いだ。
オスカーもルヴァに視線を戻す。
ルヴァが続けた。
「しかも、その夕焼けも青空も1秒1秒変化していて、同じものは2度と見られないんですよ~。多くの写真家がこぞって空を撮る気持ちがわかると思いませんか?」

毎秒ごとに姿を変える、我々の頭上を埋め尽くす空。

「ねえ、そう考えるといつも思うんですよ…今見上げている空、これだけでも十分に美しいのに、この1秒後も今も今も今も、昨日も明日もずっと、空は美しいままなんですよ。それぞれが比べようもなく美しく、世にふたつとない宝石なんです……それって」
ふんわりと、笑みが広がった。


「この世界はとてもうつくしい、そういうことになりますよね?」


いつでも、誰でも見上げればそこにある。
そんな平凡な、いっそ見落としがちなそんなもの。

全ての人に与えられるうつくしいもの、その広大なキャンバスよ。


ああ。


何と美しき、この景色。


[終]
作品名:何と美しきこの景色 作家名:秋月倫