ずるい英←米のはなし
「…イギ、」
声を投げ終わるより先に手袋をはめた無感動な指先が俺のあごに触れ、少しだけ持ち上げた。キスしやすいように。自分の方が背が低いくせに、俺はそう思って歯を堅くかみしめ、抵抗するようにあごを引いたけど、イギリスはもう俺のことなんて見てなかった。イギリスは目を閉じて、俺が避けないってことを知っているのだとも言いたげなやり方で顔を近づけて来た。でもキスの合間に彼が細く目を開けて俺を観察していることを知っている。──イギリスがそうする余裕があることも。
イギリスはまるで恋を味わうような少女の顔をして目を閉じていた。きれいな半円を描いたまつげが作る影を俺はぼんやりと見る。
俺は目を開けたまま、イギリスの顔をじっと見ていた。いつもそうしてくれていたらいいのに。俺が逃げないことだってちゃんと知っているくせに、イギリスはずるい。
俺をもしも好きだと言うのなら、どうしてその生身の手でこそ俺に触れてくれないのか。
作品名:ずるい英←米のはなし 作家名:tksgi