二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

待ち合わせ

INDEX|1ページ/1ページ|

 
あれは夏の終わり。冷房の効いた涼しい臨也のマンションで、学生の帝人は勝手に冷蔵庫を漁りアイスを食べていた。臨也は「いっらしゃい」と言って、それからずっと帝人は放置されていた。それを気にする帝人でもないし、帝人が何をしていても気にする臨也でもなかった。帝人がアイスを持ってデスクで作業している臨也の後ろに回っても、臨也は何も言わなかった。帝人は自分に仕事内容がばれても構わない臨也の態度に、その程度のものだと理解した。帝人にばれても構わない。それにしては帝人の視界に入ってきた単語たちは物騒なものばかりだった。帝人が気にしても始まらない。後で臨也本人聞いたほうが早い。帝人は直接床に座って、夜見れば綺麗な景色が見られる窓から昼間の俗世を見下ろした。こんな所に住んでいれば、それは誤解もするかもしれない。帝人は棒だけ残ったアイスの残骸を弄びながら、臨也の仕事が終わるのを待った。体育座りで顔を両腕に埋めたら、帝人はそのまま眠ってしまった。帝人が起きると床ではなく、ソファで寝ていた。タオルケットもかけられていて、頭には少し固い触感。それは臨也の膝だった。帝人はばっと勢いよく起き上がった。臨也がおっと軽く驚きの声をあげ、すぐに嬉しそうな声で「おはよう」と言った。
「おはようございます」
「後ろで寝てたからイスで轢きそうになったよ」
「未遂のようで良かったです」
「で、今日は何の用?」
臨也の質問で帝人は自分がなぜここにいるのか思い出した。たいした用ではないし、日が沈んでいればもう今日は帰ろうと思ったが、そんなに長くは寝ていなかったらしく、外は充分明るかった。帝人は迷った。ここへ来ながらもすごく迷った。ここへ来ることへの抵抗はなかったのだが、帝人はどうしたものかと思った。意を決して言うべきか。日が沈んでいれば。もう少し寝ていれば。
「帝人くん?」
黙り込んだ帝人を臨也がうかがう。帝人は腹を括った。
「臨也さん、花火見に行きましょ」
帝人が笑顔で言うと、臨也も笑顔で「いいよ」と答えた。
「いいんですか?」
「そのために帝人くんに待ってもらってたし。嬉しいな。帝人くんから誘ってくれるなんて。何か企んでたりする?」
「いえ、ただ、今日も暑いなって思って」
臨也は帝人の考え込んでいる時の顔が嫌いじゃなかった。少し眉間にしわをよせ、考え込む帝人は思いも寄らない言葉を吐き出すこともある。臨也は帝人が可愛くて憎たらしくて、それでも愛しかった。愛しい子は臨也の予想を覆す。
「臨也さんと二人で花火が見たいなって」
理由は分からないですと素直に言う帝人に臨也は堪らなく愛しいと思った。本能のままに動いたと言う帝人に臨也はどうしようと思う。脊髄が甘く痺れる感覚は下手な女とやる時よりも良かった。下世話な話だが、帝人居るだけで臨也の何か満たした。だが、臨也は知っている。帝人は臨也のことなどそんなに思ってはいない。帝人の中でどの部類に入るかは不明だが、臨也の位置づけなど重要視されていないのだろう。やはりこれも帝人の気まぐれなのだ。だとしても臨也は嬉しかった。「じゃあ早速行く?」
「臨也さんその格好で行くんですか?」
「だめ?」
「暑いですよ、外」
「うーん」
「浴衣と甚平どっちがいいですか?」
臨也は直感的に分かった。やはり帝人は気まぐれや酔狂とこの暑さで臨也に普段とは違う格好をさせようと思い、花火に誘ったのだ。臨也はそのためだけに自分を誘った帝人のことが憎たらしくて、可愛くて愛しかった。
「いいよ。そのかわり帝人くんも着てね」
「でも僕持ってな」
「大丈夫あるから」
帝人は臨也の輝く笑顔にどう答えればいいのか分からなかった。曖昧な笑顔で「そうなんですか」と言えば、「そうだよ。どっちにする?」と言われてしまった。帝人は観念して「甚平がいいです」と答えた。
「じゃあ帝人くんはあおだね!俺はどうしようかなぁ」
普通は甚平は青、というか藍が基本なんでは思ったが、余計な口は出さない。「俺は黒系かなぁ」と独り言のように言う臨也は奥の部屋に消えてしまった。ついて行けば、「波江がいればなぁ」とぼやいていた。臨也はクローゼットから甚平を何着か掘り出した。「どれがいい?」と聞く臨也に、帝人は適当な甚平を指差し、「これがいいです」と言った。それを袋に詰める臨也を不思議に思った。はいと渡された甚平の入った袋を持って帝人は臨也を見た。
「池袋で待ち合わせしよ。どうせまだ早いし。どう?」
「はあ」
「じゃあ後で」
帝人を玄関で手を振りながら見送る臨也に「後で」と言ってから、何でこんな面倒臭いことするんだろうと、帝人は首を傾げ、エレベーターを待った。
作品名:待ち合わせ 作家名:こん