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homework

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「また英語かよ、てめぇも日本人ならカッコつけてねぇで日本語で書いて来い」
「まぁお馬鹿なシズちゃんに英語の歌詞を求めるのはかなり無茶だとは思っているんだけどね、ちょっとは英語の勉強になればなぁと思っているんだよ俺は?この前も赤点だったんだって?」

あぁまた始まった。ファーストフード点の一角で、男子高校生二人の言い争いだ。
僕は氷が解けて薄くなったアイスティーを飲みながら黙って様子を見ている。
向かいに座っている門田君も、やれやれといった表現がしっくりくる顔をしていた。
四人に渡された新しい楽譜を受け取って見た瞬間、ボーカルとギターの恒例行事が始まる。
もう何度目かになるこの展開に、そろそろ飽きてはくれないだろうかと願うばかり。

「何でてめぇはいっつも英語なんだよ、日本語のほうが客にも伝わりやすいし聞きやすいだろ」
「ライブのあの盛り上がりの中で歌詞の意味をじっくり聞く奴なんていないよ。だったら発音がキレイでぱっと耳に入ってきた時に恰好もつく英語のほうがいいに決まってるね。まぁシズちゃんの発音なんてほとんどカタカナどころか平仮名みたいだけど」

珍しく静雄のほうも反論らしいことを言って戦っているようだが相手が悪過ぎた。
僕自身もよく口がまわるほうだと自負しているが、臨也はそれ以上の存在だ。
長ったらしくそれらしいことを述べて相手を言い包めるのは彼の得意分野である。
だが臨也の得意としている長文は、それが最も嫌いな静雄にはあまり効果がない。
長々とべらべら語る彼の言葉など静雄の耳に留まることがないからだ。
そのことに気付いているのかいないのか、臨也はいつだって無意味な言葉を並べた。
二人の言い争いをBGMに僕と門田君はフライドポテトをつまみながら楽譜を眺める。
揚げてから時間が経ったポテトはどうにも好かない。

「大体、曲作って歌詞も書いてきて一番大変なのは俺なんだから、新しく日本語の歌詞作れとか我儘言わないで英語のお勉強がてら英語の発音くらい頑張ってきて欲しいね」

臨也がアイスコーヒーを飲みながら眉間に皺をよせてそう言う。
彼はこういう店があまり好きではないので、集合場所をここにすると明らかに不機嫌になる。
もう少し彼の好きそうな、雰囲気のいい飲食店で、美味しい食事でもとっていたのならば。
きっと臨也も今のように雑な反論をせずに済んだことだろう、と思った。
静雄が首を傾げる。僕はそんな彼の口から次に出る言葉を何となく予想していた。
僕でもわかるのだから、きっと臨也は自分が失態を犯したことにもう気付いているだろう。

「別に新しく作らなくても、この英語のを日本語に訳した歌詞を使えばいいじゃねぇか」

まぁそうだろう。誰だってそう思う。僕だって思うしもしかしたら門田君も思っている。
毎回こんな喧嘩をするくらいだったら、英語の歌詞とは別に和訳も持ってくればいい。
そして一度両方で演奏してみてどっちが良かったか、まずは四人で考察すればいい。
録音でもして聞き比べたあとに、臨也の得意な「言い包め」をしてしまえばいいのだ。
だが臨也はそれをしたことは一度もない。さてそれはどうしてか。
ポテトを食べる手を止めた門田君は知っているのかどうなのかそれはわからない。

「これは和訳できないよねぇ、臨也?」

楽譜をぴらぴらと揺らしながら、にたりと笑ってそう言ってみた。
だがそれに応えた臨也の爽やか過ぎる笑顔を見て、すぐに己の過ちを深く後悔する。
アイスティーの安っぽい紙コップに、つうと雫が伝う。それと似たものを背中に感じた。

「今後、練習用スタジオ予約とホールの予約、その他諸々のスケジュール調節は新羅がしてくれるのかな?」
「・・・僕も英語に賛成でーす」

控え目に両手をあげながら降参のポーズを取り、うちのバンドのボスにひれ伏す。
そう言うと静雄が思い切り僕のことを睨んでいたので急いで視線を逸らした。
ボスの臨也は相変わらず気味悪いほどに優等生みたいな笑顔を張りつけている。
静雄を敵に回すのは肉体的な命の危機があるが、臨也のほうが精神にくるから厄介だ。
でも出来ることならば後者を敵にすべきではないということは痛いほどわかっていた。
何だかんだで、前者にはちゃんとした良心があるから命の保証は十分にある。
だが静雄の並はずれたあの怪力をも凌駕するような恐ろしさを臨也は持っている。
だからこの場の突きささる静雄の視線くらいは耐えなければならない。

「はいじゃあ皆に宿題。次の合わせまでに各自弾けるようになること。シズちゃんは発音もうちょっとマシにしてきてよね。俺の歌った録音データちゃんと聞いてる?あれが完璧な発音なんだからしっかり聞いてくるように」

ぱん、とひとつ手を叩き今日の会議の内容をまとめながら臨也が言う。
そしてトレーを片手に立ちあがる。それが会議の終わりの合図だ。
別に残っている必要もないので、みんな同じように立ちあがって、トレーを持った。
門田君は静雄の分のトレーも持ち、静雄はぶつぶつと楽譜とにらめっこを始めていた。
おそらく彼は自分の分のトレーを持ってもらっていることには気付いていない。
それくらい「いっぱいいっぱい」な顔をしていた。
一番前を歩く臨也の横には、門田君が新曲について何か質問しているようだった。
彼からの質問に答えながら、まだ不機嫌そうな顔をしている臨也の横顔を見る。

毎回、曲を作って来るのも歌詞を書いてくるのも臨也の仕事になっている。
いつだったか、静雄が臨也の作った曲を演りたいと言ってから、こうなっていた。
顔を合わせれば喧嘩ばかりの二人だが、お互い音楽に関することは認めているらしい。
ただ英語の歌詞に関しては該当しないらしいが。

さてこの歌詞の意味を、英語の試験で赤点を取ってくる彼が、知る日はやって来るのか。

僕としては意味を知った上で歌ったほうが、感情がこめられるというか、良いと思うけど。
だけど今日の調子だと臨也がそれを許さないといった雰囲気だ。
こっそり僕から彼に教えてやるのも楽しそうだけれど、何せボスを敵には回したくない。
残念だ、そう思いながら小さく息を吐いた。一つ前には静雄の背中が見える。
あの声が歌詞に感情を乗せて歌えばもっと良くなると思うのに、もったいない。
まぁでも書いた本人がそれを受け止められないんじゃあ、無理な話か。

臨也の走り書きされた英語の歌詞を眺める。僕はまたにたりと笑う。
だってねぇ、これじゃあまるで、ラブレターみたいじゃないか。
作品名:homework 作家名:しつ