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自覚と宣戦布告

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昼休みの屋上。
何故こんな事態に陥ったのか。
末弟が随分とご執心の様だから、からかい混じりに話を振った。
それだけだ。
…それだけの、筈だった。



「………勝利は知ってるでしょ」
溜息と共に、そう言われる。
返す言葉が見付からず、何も言わないでいると、ちらり、とこちらを見て、また溜息。
「あいつはね、違うんだよ。勘違いと思い込みでラッキーマンに弟子入りして、それだけ」
自嘲気味に笑う。
…こいつのこういう顔は、あまり好きじゃねえな。
そんな事を思っている俺に当然気付く事も無く、宇宙一ついてない男は言葉を続ける。
「まぁ、勝利はブラコンだもんね。心配なんだろーけど、大丈夫だよ。…僕は、努力が好きなんだから」
色々と突っ込みたいが、それよりこいつの今の告白の方が重要だ。
ハッキリ言うじゃねーか、オイ。しかし、それのどこがどう大丈夫だと…。
その思いが顔に出ていたのか、俺の内心を読んだ様に洋一が笑う。
僕は、ついてないからね、と呟いて。
「ラッキーマンならともかく、追手内洋一が努力とどーこーなる事なんて、」
「じゃあ俺ならどうだ」
間。
穏やかに、一種諦めた様な、どこか哀しいその笑みに。
己の中で生まれた衝動のまま。
痛みを含むその声を遮る為に吐き出された言葉は、なんとも馬鹿なものだった。

自分でも意外だった。
だが、言葉にしてしまえばしっくりくる。
ああ、こいつらを見ていて何か面白くなかったのは、こういう事か、と。
「………うん?」
処理が追いつかないのか、洋一が笑みの表情のまま首を傾げる。
ただ、こめかみから流れる一筋の汗が、全く理解していない訳ではないのだと知らせていて。
「一つ言っておくがな、確かに俺は努力が大切だ。大事な弟だからな。あいつには幸せになってもらいたい。だが、それでも譲れねえモンはある」
「………ええと」
困惑が顔に広がる。
下がる眉尻、あうあうと言葉にならない声を漏らす唇と、小さな黒目の中で揺れる光。
無理に浮かべる笑みよりはよっぽどいい。
宇宙一ついてない男。
だから、自分が努力を好きなら、どーこーなる事なんて、ないのだと。
………そんな筈があるか。
お前の不運は、それでも不幸と同義じゃねえんだよ。
あいつの努力を、見くびるな。
思わずそう考えて、心中で舌打ち一つ。
「………俺の事、考えてろ」
そう言って、口を塞ぐ。
触れた瞬間にびくり、と身体が揺れた。
が、その後は思考が停止でもしたのか、余程驚いて身体の自由がきかなくなったのか、石の如く固まった。



昼休みの屋上。
何故こんな事態に陥ったのか。
男の癖に柔らかいそれを塞いでからそう長くもない時間の後、解放する。
驚きに目を見開いて、未だ固まったままの洋一に苦笑して。


「師匠!!」
屋上の扉が勢いよく開かれ、耳に馴染んだ声で、いつもの叫びが放たれた。
師を呼ぶ時のあいつの声は、叫びだ。
特に姿が見えなくなると、ああなる。
洋一は、気付いているんだろうが…やはり、根底に自身のついてなさが在る為に、あいつの想いを素直には受け入れられない。
そして、自分の想いをも見せない。
………それなら。


「俺でいいだろう。洋一」
「え」
努力の方を向いていた洋一の意識をこちらに引き戻す。
「俺は、お前の不運になんぞ、負けん」
困惑の顔に、じわじわと赤味が増していく。
屋上に一人居たのは、努力が忙しそうだったから、だったな。
部活の助っ人やらで、か。あいつが優先するのはいつでもお前だってのに。
それでも、辛いなら。………それが、辛いなら。
「俺にしておけ」
「………何してるんですか、兄さん」
ああ、案の定邪魔しに来やがったな。
お前を無視して洋一と話してた俺が気に入らないか。
洋一を背に庇う様にして、俺を睨んで立つ努力。
解りやすい奴だよ、お前は。
苦笑する俺に、怪訝そうな顔をする。共に、一瞬気も緩む。
そう簡単に警戒を解くのは感心しねえな。
「………お前が」
「は?」
「お前が洋一を幸せにする為の努力は、もういらねえ。俺に寄越せ」
「ッ!?」
「ちょ、勝利!?」
「何だよ。俺が幸せにしてやるぜ?洋一」
「なっ!!何言ってるんですか兄さん!!」
「言葉通りだ」
「だっ、駄目です!!師匠は私が!!」
「俺は勝つ」
「勝ち負けの問題じゃないでしょう!!」
「そうだな。決めるのは洋一だ」
頭に血が上ると、周りが見えなくなって隙が出来るもんだ。
興奮する弟をかわし、洋一を引き寄せる。
「え、ちょっ…」
「俺にしろよ?」
耳元にそう吹き込んで、先程より強引に、少々乱暴に、見せ付ける様に。
「んぅっ…!?」
「兄さんっ!?」
洋一に、口付けた。



さあ、勝負は、これからだ。
作品名:自覚と宣戦布告 作家名:柳野 雫