二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

「 拝啓 」 (3)

INDEX|1ページ/1ページ|

 


「……はぁ」


何度目か分からない溜息
もうこっちに来てから一生分の溜息を吐いたといっても過言ではないと思う


鳴らない携帯電話を睨んでは悶々と考える
自分からメールを、いや電話をしようか、いやでも今日本は何時だ、その前に彼にとって迷惑じゃないか
その間も、手は無意識に携帯電話を握ってアドレス帳の、もう毎日見ているページを開いた


「…あああぁああぁああもう!」


電源ボタンを押して携帯電話を閉じて、思いっきりソファーに投げつけた
一瞬遅れて「大丈夫だろうか」なんて考えたけどそんなのどうだっていい
前髪を掻き揚げて、投げた携帯電話を睨みながら、それでも思い出すのはたった一人
いや、思い出すもなにも、一日だって思わない日なんてない


とにかく、毎日毎日彼のことを想ってやまなかった




「…………帝人、君」




日本に一人置いてきた、彼のことを






***






仕事の都合上、海外に行かなきゃ行けなくなった
最悪だ
なにが最悪って、三ヶ月もの間帝人君と離れなきゃいけないことだ




ああそうさ、折原臨也ともあろう男が、たった一人の子供、しかも男に惚れ込んでいる
馬鹿だと笑えばいい、けど俺にとって彼はもう欠かすことの出来ない存在だった


最初はただの盤上の駒に過ぎなかった彼だけど、いつのまにか、本当にいつのまにか、彼の存在が俺の心を侵食していた
笑顔を見ていると落ち着けるし、泣き顔を見ていると胸が疼いた
彼の言動に一喜一憂している自分が存在して、驚いたけれど不思議と嫌だとは感じていなかった


それほどまでに彼は、俺の全てになっていたんだ






***






「……会いたい」


最早禁断症状ともいえる自分の状態に、思わず自嘲的な笑みが零れた


会いたい、触れたい、抱きしめたい
あの声で「臨也さん」と呼んでほしい
あの可愛い笑顔を見せてほしい


「帝人、君」


(あぁ、あと少し……少しだ)
(これを過ぎたら、やっと、やっと…)


「………やっと、あえるね」




彼を思い出すだけで、いつも不思議と穏やかな心地で笑っていた
なんとかやる気を取り戻すと、俺は机の上に転がっていたペンを手に取った










***






―――パリ、ン




「ひゃっ……!」


ちょっとした油断だった
食器を片付けている時、うっかり臨也さんが使っていたカップに手が当たってしまった
咄嗟に受け止めることも出来ず、カップは重力に逆らうことなく下に落ちて、音を鳴らしてただの破片と化した


「あ……どうしよう」


確かこれはいつも臨也さんが使っていたカップだ
しかも臨也さんのことだから安物なんて使わないだろう


(……弁償、できるかな)


カップ一つぐらいならなんとか弁償できるかもしれないが
それ以前に情けなくて、僕は溜息を吐いた


とりあえず片付けようと思い、破片に手を伸ばした
カチャと音を鳴らして、白く綺麗な陶器の破片を片付けていく


その時、


「………痛っ!」


ちくり、と指に小さな痛みを感じた
慌てて人差し指を見れば赤い線が走っていて、ぷくりと小さな赤い珠が出来ては指を伝って落ちた
白い破片に赤い模様が出来る
不謹慎にも綺麗だなって思った


「……もう…駄目だなぁ、僕」


いくらなんでも、落ち着きがないと思う
でも、しょうがないじゃないか
これぐらい見逃してほしい


そんなことを誰に言うわけでもなく、独り言ちる


(だって、明日には…)




あした、には




ちらりと見た、罰印で埋まったカレンダー
その中に一つだけ、赤色で日付を丸で囲っている
その日付は明日で、明日は――




『みかどくん』




不意に臨也さんの声が頭を過ぎったかと思うと、顔中が熱くなった


「臨也…さん」


会いたい、会いたい
早く貴方の声を聞きたい
抱きしめたい


とにかく、貴方に 触れたいんです




ぼうっと、そんなことを考えていた僕は、指に走った痛みで我に返った
顔の熱はそのまま放っておいて、とにかく片付けをしようと左手で破片を拾う






この時、どこかで微かに感じていた不安には気付かないフリをして






(だってもうすぐ会えるんだ)
(だから、そんなのは杞憂だって、僕は思い込もうとした)






臨也さんが帰ってくるまで、あと  一日





作品名:「 拝啓 」 (3) 作家名:朱紅(氷刹)