夏の裏道
急につんのめる。こんな砂利ばかりの小路で、着なれないものと履きなれないものを身に付けて、あまつさえ前を歩く男が一人。歩きにくいことこの上ない。
「おい、大丈夫かアラウディ」
対してこの男は、幼馴染みの日本贔屓に付き合ってか、このような和装をすることには慣れているらしく、僕とは違い危なげなく歩いているわけで。僕はこいつを、何かにつけ無意識に嫌味たらしい奴だと思っている。
「平気だよ」
差し出された手を取らずにいたら腕を引かれて、気付けば軽々と抱き上げられていた。
「っ…G、降ろせ」
「無理すんな、足ひでぇぞ」
暴れようとしたのをたしなめられ、言われて視線に近い高さまで持ち上げられた足を見てみれば、鼻緒の当たる指の間が僅かに裂傷を起こしているだけだ。
「これくらいなんともない」
「ばぁか、そのままにしてたらバイ菌入るぜ」
僕を持ち上げたままどこに行くのかと思えば、小さなお堂が見えた。その手前の石段に降ろされて、下駄を取り上げられて。
「っ!」
患部を、紅い舌が舐める。まるで野性動物のように、念入りに。それだけで、普段使わないような神経が呼び覚まされて背筋を駆け上がっていく。
「ん、深くはねぇな」
唇から白い歯を覗かせて、手拭いに噛みついて。何をするのかと思えば、布を裂く音に合点が行った。細長く裂かれた布を包帯のように巻き付けられ、最後に指先と歯できゅっと結び目を作る。そんななんでもない動作も、今の僕には目の毒でしかない。
「行けるか?」
そう問う男の袖を引く。
「ここで、いい」
もうすぐ花火が始まってしまうと急いでいたことなんて、もう忘れてしまっていた。
「……んだよ、お前から誘うなんて珍しいじゃねぇか。いいぜ、人もこねぇようだからな」
祭り会場とは逆方向、穴場だと教わったところに向かう途中だったから。どうせと僕は自嘲をこぼす。
彼に溺れて見えなくなることぐらい、知っていた。