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自由を望む金魚は大海を泳ぎ得たか

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雨が降っていた。
しとしと、纏わりつくそれは鬱陶しいものでしかなく、私の体温を容赦なく奪っていく。
それでも、私は対峙した、強い光の宿る瞳から視線を逸らすことはなかった。

「…家康、貴様を殺せば私は、私、は」
「その先に何があるというんだ」
「黙れ!貴様に何が解る!?」

刀を抜いた。
幾千もの血を吸いし我が愛刀は鈍色に染まり咽び泣くように空を切る。
喜んでいるのだ。
漸く、漸く家康を殺せる。わが主君、偉大なる秀吉様を殺した男を、私が討つ事ができる。今の私にとってこれ以上の至福があろうか。

「いぃえぇやすぅぅううう!!!!」
向き合う光に衰えも陰りも見えぬ。
「三成、お前、ワシを殺した後は、どうする」
「何を戯言を。すぐにでも秀吉様の御許に向かう」
「死ぬのか」
「殉じるのだ」
「死ぬのだな」
「煩い!!」
切り込んでも硬い手甲に阻まれてキィン、と耳障りな金属音が響く。

ざぁざぁ

いつの間にか雨は大降りになっていて、視界が悪い。

「貴様、私を愚弄するのか!?」
「違う!ワシを殺してお前も死ぬ。それが秀吉の望みだとでもいうのか!?」
「貴様がその名を口にするなぁぁッ!!!!」
「お前が死ぬのをやめると言うのなら」
「何を言うか!!貴様…死にたくないからの時間稼ぎか?矮小な存在に成り下がったものだな、見下げ果てた」
「…三成よ、ワシを殺して、その先に何がある?」

何を言う。貴様のいない世界など
……貴様の居ない、…………秀吉様も、半兵衛様も、いない…世界?


「あ…」

「お前は、ワシが居なくなったら独りぼっちだ」


ざあざあ

雨音がうるさい。

「貴様には関係ない!!これから死する者が何を言っても世迷言にしかならぬのだ」
「ワシはまだ死ねんのだ」
「私が終わらせてやる」
「まだ、死ぬことは出来んのだ、三成」
「煩い…煩い煩い煩い煩い煩いっ!!!!!!」
「ワシは、お前を残して死ねんのだ」

痛い。

雨に穿たれる。
真っ直ぐな光が痛い。
「…貴様…死ね!!お前が生きている限り私は、私は死ねないではないか!!秀吉様の御許にも行けぬではないか!!なぜ、なぜっ…」

『お前が秀吉様を殺したのだ』

「貴様じゃなかったら私はこんな、こんなに苦しくはなかった!!貴様が…何故だ家康!!何故貴様でなければならなかったのだ!?」

しとしと

雨が止む。
濡れた髪から滴る滴が気色悪い。
家康は動かない。強い眼光で私を射抜いて、動かない。

「三成」

呼ばないでくれ。刀を握る手に力が籠る。

「貴様は…私から、秀吉様だけでなく、“家康”まで奪うのか」
「三成」
「気安く私の名を呼ぶな!!」
「三成。ワシはお前を好いている」
「聞きたくない!!」
「ワシはお前までも…この手で殺したくないのだ」
「黙れぇぇぇぇええええ!!!!!」


キィイン

澄んだ音が響いて、刀は折れた。
迷いのある剣では、目の前の光を殺せるはずもないのだと、どこかで解っていたのかもしれない。

「何故…」


今になって、未来を見せたんだ。

「殺してやる…殺してやる、家康…憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いゆるして憎い憎い憎い憎い憎い憎い…殺してやるぅぅぅうううっ!!!」

慟哭を上げて飛びかかった先の光は、泣きそうに笑っていた。