卒業式
出てきた声は何故か棒読みのようで、黒子は苦笑していた。
「卒業…なんですね」
「それは仕方がないです。ボクは君の先輩なんだから」
「先輩はそうやって離れてくんスね」
「だから…仕方がないんですって」
「オレらのあいだには、絶対に越えられない壁があるんス。オレはそれが嫌なんスよ!」
「だったら、ちゃんと卒業してくださいね」
「…先輩」
「呼ばれてるから、また後でね」
黄瀬は何か言いたそうだったが、黒子は駆け足でその場を離れていった。
黄瀬はぼんやりとその後ろ姿を見送りながら感じていた。
(先輩にとって、オレってただの後輩だったんスか?)
それは、絶対に聞けないことだけれども。
例え部活が同じだといえど、部活の時にしか一緒に居ることが出来ない。普段の生活―授業にしたって、修学旅行や体育祭などの行事にしたって、一緒の思い出を作ることは出来ないのだ。
そして、先に卒業していく。高校を卒業して大学に進学していって、違う環境でまた先輩は新しい人と出会うのだろう。
「たった4ヶ月なのに…」
その4ヶ月の重さを分かっていたはずなのに、今になってより重く感じていた。