二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

痛いの痛いの

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 


「痛いの痛いの遠くのお山に、飛んでいけー」
 アレンの頭を撫でていた手を、そっと横に流すように離すとラビは呟く。それは恐らく彼自身がかのに人されたことであったのであろうが、アレンにはとても優しい音色に聞こえた。
「神田は…意外と優しいです」
「だな」
「口は悪いけど、嘘を吐くような人でもないです」
「うん」
「気休めなんて大嫌いだろうし、言葉に頼ろうとする弱い人でもないと思います」
「うん…で、どした?」
 よしよし、とまた泣いた子をあやすようにラビの手がアレンの頭を撫でる。泣いていませんよ、とアレンは呟きながらそっと手を払いのけた。
「神田はあなたが大事だったんですね」
「は?」
 唐突に飛んだ結論に、今度はラビが凍りついた。
 だって、とアレンは口ごもって俯くと、次に勢いをつけて立ち上がった。
 一連の動きを目で追い、ラビはアレンをぽかんと見上げる。
「頼りない、痛いの痛いの飛んでいけ、なんて言葉を使ってまでラビの無事を祈ってるじゃないですか」
 きっとあの人は祈りなんて大嫌いだ、と零した瞬間、アレンのどちらかと言えば愛くるしいであろうその顔がゆがめられるのをラビはじっと見上げていた。そうして思い当たる。
「好きなん?」
「大っ嫌いです!」
「誰のことが?」
 にやにやと笑いながらラビが立ち上がる。正面から見たアレンの顔は想像とは違い赤くは染まっていなかったことに驚きを感じつつ、また頭を撫でる。
「…あなたが、大嫌いです」
「たぶんユウが俺を好きだから?」
「神田も、大嫌いです!」
「言葉は神なんよ。それでもキライって言う?」
「だいっ……」
 そこまで言って、アレンは俯いた。しん、と静まった空気に少しからかいすぎたかなぁ、とラビはアレンの頭を二度ぽんぽんと叩いてから離す。
 しかしその手は完全に下ろされるよりも前にアレンの右手が手首を掴んでしまい、中空で固定される。
 慌てて振りほどこうとしたラビが口を開くよりも前にアレンの呼吸音が耳に届いた。
「好きです!」
「はぁ!」
「好きですよ、大好きですよ。悪いですか!睨まれたって、殴られたって、斬られたって、好きですし好きになって欲しいです。僕のためにも祈って欲しいし僕のためだけに祈って欲しいし」
 ぜえ、はあ、と呼吸を整えるように幾度か呼吸を繰り返し、アレンはゆっくり顔を上げた。今度は予想通り頬は赤く染まっていた。けれども、それとは対照的にその瞳は情欲にも嫉妬にも染まってはいなかった。
 ラビはその瞳を呆然と見つめる。視線が合えば、その瞳が切なく歪むであろうことは想像に容易かった。
 そして、思ったとおりにラビと視線が合った途端、アレンは切なげに瞳を歪ませる。しかしまるで感情の読めない瞳に、その奥に隠されたものを知りたい欲望に駆られた。
「あのさ」
「痛いです」
「へ?」
「痛いです。痛いです痛いです痛いんです」
「なん?どした?」
 視線を外すことなく苦痛を訴えるアレンに、うろたえて触れようと手を上げかけたところでその手首がアレンによって固定されていることを思い出す。
「アレン、手」
「痛いんです。ここが」
 ぐっと、その手が引き寄せられる。それはまっすぐにアレンの胸元に寄せられた。
「遠くのお山なんて僕の知ったことじゃないんです。ラビ」
「…」
「痛くて苦しいんです。こんなときはどうすればいいんですか」
「そりゃあ…」
 導かれた手で、そっとアレンの胸元を撫でる。
「痛いの痛いの遠くのお山に飛んでいけー」
 歌うようなそんなおまじないに、アレンは口元を歪める様に笑った。



「遠くのお山とは、言ってくれるなぁ」
 一人残され、壁にもたれかかるとラビははあ、とため息を吐いた。
「ほんとに痛くなったさぁー」
 胸元をぎゅうと押さえて、再びため息を吐く。
 まっすぐに見つめる瞳。掴まれた手の痛み。それがまるで告白を受けたのが自分だったように思えて笑えてくる。
 遠くのお山の痛みは誰にあげたらいいんですか。
 おまじないとは一種の呪いなんだとある人が言っていたことを思い出す。
 呪われた彼は恋をして、恋したあの人に呪いをかける。そうしてまた、呪いをかける彼を見た自分も呪われたことが愉快でたまらなかった。
作品名:痛いの痛いの 作家名:なつ