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例え話

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「タンブルは、もしも私がいなくなったらどうする?」
カッサンドラは小首をかしげながら、冗談めかして隣に寄り添う恋人の瞳を覗き込む。
他愛も無い、恋人同士の睦言である。
男は大真面目に、カッサンドラの瞳を見つめたまま悠然と「探す」と答えた。

「探すって、どこを?」
「この世界の全てを」
腕の中の小さな恋人の瞳を変わらず真っ直ぐ見つめながら、
タンブルブルータスは悪びれもせずに答える。

「大きく出たわね。そんなこと言って、見つからなかったらどうするのよ」
「見つかるまで探す」
表情も変えずにそんなことをいうタンブルを見て、カッサンドラは肩をすくめる。


「じゃあ例えばね。私が死んじゃったりしてたらどうするの?
 仇でも打ってくれる?」
少し意地悪く言うカッサンドラ。
長身の恋人を見上げる様に尋ねる。

「それはあまり俺には関係がないな」
「あら、冷たいじゃない」
カッサンドラがそう言うのと同時にタンブルは後の言葉を続けた。
「もしカッサンドラが死んだら、俺も死ぬから」

一瞬の静寂。

「…やめてよ」
目をそらすカッサンドラ。
それを変わらず優しい瞳で見つめるブルータス。
「でも俺が死んでもお前は死ぬなよ?」
「勝手な話ね」
「そうだな」


「やめましょう、こんな話」
「どうした。例えばの話だろう?」
「…例えばの話よ」

カッサンドラは恋人の胸に頭を預ける。
小柄なカッサンドラはタンブルブルータスに包み込まれる様な形になる。
いつものふたりの定位置だ。
しばらくの間、ふたりで藍に染まった空を見上げる。
夏の空では、丸い月が清浄な光を放つ。


タンブルにもたれた姿勢のままカッサンドラがぽつりと言葉をこぼす。
「…私は死なないわよ?」
「ああ。」
タンブルブルータスは満足そうに微笑む 。
そして、腕の中の少し不機嫌になった恋人の顔に自分の頬を寄せる。
カッサンドラはしばらく機嫌の悪い素振りをしていたが、やがてこらえきれずにくすぐったそうな笑いを漏らす。
恋人たちの睦ましげな様子を、月がやさしく見守っていた。

作品名:例え話 作家名:宮島未