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ただそれだけの

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とん、と肩に掛かる重みに苦笑する。
「…何だよ」
不機嫌そうな声に、べっつにぃー?と、笑いを含んだ声を返して。
「今度は何だ?相手にされなくて拗ねたかよ」
「…そんなんじゃないよ」
返事と共に、重みが増す。
甘えているのだ。
本人は否定するだろうが。
最近は、ちょくちょくこういう事がある。
始まりは、じゃれ合いの延長の様なものだった。



いつの事だったか。
原因は知らないが、級友である追手内洋一と杉田努力の様子がおかしい事に気付き、ストレートに訊いてみるもよく解らず。
大した考えも無く、洋一の肩を抱いて、「んじゃ、俺が慰めてやるぜー?」などと。
軽いちょっかいを掛けたのが始まりだ。
「何言ってんだか…」
「んだよー、ホレ、バラ付き!!」
「…内職のだろ」
そんな感じで、その場は終わったのだけれど。
帰りに洋一に誘われて、家に寄って、部屋に入って。
座る目立に、ぽてん、と寄り掛かってきたのが。
「………どした?」
「………なぐさめて、くれるんでしょ」
疲れた様に、目を閉じながらそう言って。
そのまま動く事も無く。
いつもなら当然の如く一緒に帰る筈の努力がいない時点で、まあ予想はできた事だ。
「…しゃーねーなー。んじゃ抱き締めてやっか?ホレ、こい!!」
「いらん」
「にべもねぇなオイ!!」
そんなリアクションのでかい、いつもの目立の態度に、洋一は安心した様に笑った。



努力と喧嘩したら、甘えに来る程度の。
逃げ場所程度の。
それを悪いとは思っているのだろう、礼のつもりか、その後には目立を夕食やらに招待したりする。
(…わかってんのかねー、悪循環になってんのに。ま、有難いけどな。うちの弟妹も来ていいって言ってくれるし)
いつもは師匠師匠と付いて回っているのに、たまに距離を取っている時がある。
そんな時、洋一と一緒にいれば、近付いて来ない癖に、凄い眼で見てくる。
何があったのかは知らないが、居心地が悪い事この上無い。
それは別にいいとしても、自分の弟子の機嫌がどんどん悪くなっていく事くらい解るだろうに。
目立は、なんだかんだと三人で馬鹿やって騒いでいる時が嫌いではないのだ。
(…ああ、でも)
この宇宙一ついてない男と二人でいる時は、意外にも結構穏やかに過ごせるから。
それはそれでいいか、とも思う。
相変わらずの肩の重み。
目を閉じて、無防備に在る級友の顔。
この時間が終わるのは、あとどれ程か。
大して長くは無いだろうけど。
その時には、もう一つちょっかいを掛けてやろう。



そう決めた目立が、洋一の唇に己のそれを重ね。
男同士なんてノーカンだぜ?なんて、あっさり言って洋一を脱力させて苦笑させるまで、あと十分。

そして。

またなんかあったら慰めてやるよ、と。
目立が笑いながら言って、互いの認識を、ただそれだけの関係だ、と。
免罪符の様に定義付けてしまうまで、あと──────





「…ごめんね」
「…ま、いいけどよ」
互い、苦笑しながら交わす言葉に、何が潜んでいるのかなどは思考する事すらせず。
何が隠れているのかなど、自身でも判然としないまま、それ以前に疑問に思う事すら無く。
この関係は続いていく。





だってそれは。
己を慰める為の。
彼を慰める為の。
甘える程度の。
甘えさせてやる程度の。
逃げ場所程度の。
ただそれだけの、ものなのだから。
作品名:ただそれだけの 作家名:柳野 雫