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新しい日常がやってきました

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「それ、痛くないの?」
頭上から突然降ってきた声に、静雄は胡乱気な眼差しで顔を上げる。額から垂れる血が目尻をつたい、鬱陶しかった。
血を拭いながら声の主を探せば、静雄が座り込みもたれ掛かっている校舎の窓から、顔を覗かせる男がいた。
幼い顔に眼鏡をかけた男は、ともすれば少年に見えた。だが制服ではなくラフな格好で白衣を身にまとう姿から、男が学生ではないと判断する。
男は窓の縁に肘を置き、周囲を見回した。それから、もう一度静雄に問う。
「ねえ、痛くないの?」
静雄はカッと頭に血を上らせ、校舎の壁に指を食い込ませた。
「痛くないわけねえだろうが…!」
周囲にはまさに死屍累々と言えるような、倒れ伏す人の姿がある。この場で意識のある者は、静雄と男だけだ。
男がその現状を見てどう思ったのか、だいたいの予想はつく。好奇の視線はよくあることだ。しかし、静雄がその評価を大人しく受け入れられるはずがない。
苛立たしさを露わにした静雄の表情は、恐ろしいほどの殺気を感じ取らせるが、男はふうんと頷いただけだった。
「痛覚はあるんだね。じゃあ、僕のところに来ればいいのに。痛いのをそのままにするのが、好きなの?」
「…は、何言って、」
「怪我をしたら保健室。常識でしょう?この学校の子たちは素人目で怪我を甘く見てる子が多いのか、あんまり利用してくれないけど。」
「保健室って、あんた…。」
敵意も怯えもない声に少しだけ冷静になり、男のいる部屋を確かめる。並んで置かれたベッドや、棚に纏められている薬の瓶。体重計や身長計のあるその部屋は、確かに保健室のようだった。
教員すら静雄に近付くのを恐れる有り様であるから、静雄は怪我をしても保健室を利用することなく新羅に頼るか自然治癒に任せている。だから、男を見たことがなかった。
「…あんた、俺が怖くねえのかよ?」
男がずっと保健室にいたのならば、窓から一部始終が見えていたはずだ。つまりそれは、静雄のデタラメな力を目の当たりにしていたことを意味する。
どう贔屓目に見ても、貧弱そうな男だ。職業意識により静雄に話し掛けてきたというのなら、その根性には感心する。実際静雄は見た目には重傷であったし、保健室裏で座り込んでいれば仕事がら放っては置けないだろう。
そんなことをつらつらと考えるのは、一種の自衛だ。わかっている。
静雄は期待したくなかった。期待して、傷付きたくなかった。
わずかにそんなものが芽生えたのは、きっと男があまりに普通に静雄の眼を見ながら喋るからだ。
喧嘩している姿も見せた。男に対して凄む姿も見せた。
だが、男の眼は穏やかに凪いでいる。
男はやや、首を傾げた。
「君を怖がらないのは無理だよ。本能的な問題だし。」
その言葉の意味を理解しても、激昂することはなかった。ただ、納得と諦めが一瞬にして腹の内を満たす。
そうだ。自販機を投げ飛ばしたり素手でコンクリートに穴を空ける存在を、怖がらないものなどいない。
静雄は、再び顔を俯かせようとした。しかし、途中でその動きを止める。
「でも、君はこの学校の生徒で、僕はこの学校の保健室の先生だ。」
それが、何だと言うのだろうか。静雄がちらりと見上げれば、やはり男の眼は真っ正面から静雄を映していた。
「怖いとか怖くないとか、君が遠慮する必要ないんだよ。この学校の生徒として当然の権利なんだから、君はふんぞり返って治療しろって保健室に来ればいい。」
まあ実際ふんぞり返られると腹立つかもしれないけど、と男は小さく笑った。
「それに、みんな保健室を利用してくれないから、何だか給料泥棒になった気分になって落ち着かないんだよね。」
この男の言っていることは、滅茶苦茶だ。静雄の正常な部分がそう思う。
「だから、僕に仕事させてくれない?」
だが、静雄は男の言い分を悪くないとも思った。ここまではっきり言われると逆に清々しいというか、静雄としてももう笑うしかない。
久しく怒り以外に動かしていない表情筋を緩め、男が差し出した手を取り立ち上がった。