こればっかりはノーサンキュー
たまに池袋で出会し挨拶する程度の仲でしかないが、帝人にとっては非日常そのもののような静雄と会話するだけでも満足だった。
帝人は非日常が好きだ。愛している。帝人ほど、非日常を求めている存在はいないだろう。それぐらい、帝人は非日常に貪欲だった。
けれど非日常を求めるのと同じ強さで、自身の保身をはかり降りかかる火の粉を嫌う。帝人の求める非日常とは、帝人の考える帝人の望む面白おかしい非日常だけで、そうでないものはただの災厄だった。
「お、お前が好きだ!」
衆人環視の中、爆弾投下された告白は、エコーがかかったように響き渡る。ざわりと揺れる空気の後に、周囲が静まり返った。
平和島静雄は、今のところは帝人にとって好ましい非日常だった。けれど、今日はその認識を改めなければいけないかもしれない。
(これだから、目立つことに慣れている人目を気にしない人種は…。)
静雄はじろじろ見られることも注目されることも陰でひそひそと名前を出されることも日常茶飯事なのだろうが、帝人は一介の高校生に過ぎない。
池袋の有名人が告白、それも同性の高校生にだ。周囲の人たちの中で既に立ち直った何人かは、携帯を構えている。多分、写メ付きで数日中には情報が出回るだろう。ダラーズの掲示板に載せられたものなら削除出来るが、他はどうするべきか。
告白された事実よりも、今後の自分の立場を考えて頭が痛くなる。静雄の恐ろしさを知っている池袋の人間が静雄に直接何か仕掛けるわけがなく、そうすると強制的に当事者の一人にされてしまった帝人に衆目の好奇心が集まるわけだ。
静雄も自分が好きだというなら、もう少しこちらの都合を考慮するべきではないのか。告白を断っても受け止めても、帝人は間違いなく悪目立ちする。
こんな非日常は望んでいない。情報が出回ってしまえば、告白を断ったとしても静雄関連の災難に否応なく巻き込まれる可能性がある。もちろんそれは受け入れても同じだが、その場合は静雄という最強のボディーガードも手に入れることが出来るのだ。
もし静雄がわかって帝人を追い詰めているのなら、とんでもなく性質が悪い。
返答に困り静雄を見上げれば、何を思うのか静雄は頬を染める。
(この人にそんな策略練るのは無理か…。)
乙女な反応は、どうせなら第三者として見たかった。これが臨也あたりに告白したのであれば、帝人も十分楽しめたというのに。
(今日は厄日なのかなあ。)
そわそわと落ち着きなく帝人が口を開くのを待つ静雄や、無数に響く携帯のシャッター音にげんなりしながら、この場をどう切り抜けるのが一番今後に影響が少ないか帝人は考える。
作品名:こればっかりはノーサンキュー 作家名:六花