(シズちゃん、好き。)うるせぇよ、と言おうとしたのに声がでない。どうしてだろうと平和島静雄は思うのだけれど、それ以上考えることができない。体が鉛のように重たい。それなのに意識はふわふわとしている。どうしてだろう、とまた静雄は考える。(シズちゃん、好きだよ。)(好きなんだよ、シズちゃん。)この声は誰だっただろうか。それすら考えられない。もしかしたら、自分は眠いのかもしれない。静雄がそう思うと、意識までずっしりと重くなった。そうか俺は眠かったのだ、とそう平和島静雄は理解した。(シズちゃん、ねぇ。シズちゃん、起きて。起きて、聞いてよ。)聞き覚えのありすぎる声。腹の底から沸き上がってくるなにかを感じたが、気のせいだと思う。だって自分は眠いのだ。(シズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃん。)うるさい。うるせぇ寝かせろ、臨也。そう思ったとき平和島静雄はようやくこの声が、自分の天敵であった折原臨也のものだと思い出した。はた、と静雄は考える。今にも沈みそうな意識の中で考える。さっきこの男はなんと言っていた。瞼が重いとか体が重いとか、言ってはいられない。聞き出さねばならない。折原臨也が、平和島静雄のことを好きなんて。そんなことあるはずないのだから。平和島静雄は目を開こうとする。しかし開かない。口を動かそうとする。しかし動かない。手を動かそうとしても、動かない。どうしてだろう。どうしてだろう。感触はある。床に転がっている。気配もする。一人の男、臨也の気配。しかしそれもだんだん薄れてくる。気配がしなくなるのではなく、感じ取れなくなる。いやだ、と静雄ははっきりと思う。けれど意識はどんどん沈んでいく。いやなのにいやなのに。寝たくない。このまま眠りたくない。(シズちゃん。)途切れ途切れの意識の中で、臨也の声だけが響く。(臨也、臨也、聞いてくれ。俺の話も聞いてくれ。)(臨也、眠りたくないんだ。俺はもう、眠りたくないんだ。)(臨也。好きだ。俺も好きなんだ、臨也。)言いたいのに、伝えたいのに、平和島静雄はもう動かない。
「バカなシズちゃん」
動かなくなった静雄の横で折原臨也は言った。
「シズちゃんには俺しかいなかったことははシズちゃんも知ってるだろうに。どうしてシズちゃんは俺を捨てようとなんてしたのさ」
バカなシズちゃん、ともう一度言って臨也は笑った。
「残念だったね、シズちゃん。俺にもシズちゃんしかいないんだよ」
自然な動作で、臨也は折原臨也の首に刃をあてた。
「俺の告白、最後まで聞いてもらうからね」