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にいちゃんが、すき

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神楽は、冷たい感触にぎゅっと目をつむる。
 神威は、もの珍しいオモチャをさわるように、神楽のほっぺたにふれる。背中がぞぞっと震えるけれど、動かないように我慢する。
 神楽の兄は、かぞくには優しい。
 やさしいと思うけれど、ときどき、ひんやりとした何かを感じる時があって、その度に神楽は大袈裟に首を振って、気のせいだって思うことにしている。
 たとえば、ときどき手を握ってくれないとか。神楽のやわらかいほっぺたを、やわやわとつねったり。最近は、ときどき、目を細めて、神楽をへんてこな生きものを見るように、眺めている。そうされると、神楽は、今までの自分とは違う、へんてこな生きものになってしまっているように感じてしまう。
それは、この年中雲に覆われてじめじめと雨が降り続ける星が、ほのかな明かりすら失ってしまう真夜中に、こっそりとはじまる。神楽は寒かったのでこどもの頃の延長で、隣で休んでいる兄の布団にもぐりこむ。病気がちな母と離れて眠るようになってからは、毎晩のことになっていた。
真夜中に目を覚ますと、ぐずぐずと涙で濡れていて、神楽は兄の寝間着に頬をこすりつける。兄はずっと眠りが浅いのか、神楽をぎゅうっと引き寄せる。
 にいちゃんが、だいすき、だ。
 たぶん、いちばん。マミィと同じくらい。(パピィはぜんぜんもどってこないから、ちょっと嫌いだ)
 神楽は、どこかマミィのと似てる、温かいにおいに、すんと鼻を鳴らし、そのままうとうとと眠ってしまいそうになったとき、とつぜん、突き放されるように、離された。ぺたんこに潰れた布団の上に、ちょこんと座らされて、ほっぺたにふれた。指だけが、氷みたいに冷たかった。
 神楽は固まって、じっと動かない。
 ――かぐら。
 耳たぶにふれるような距離で、兄がささやいた。
 真っ暗な部屋の中で、神楽とおんなじ色の青い目がつめたく光ってた。もの珍しい生きものを、静かに観察するように、神楽を眺めている。
 ――どうして、
神威は、神楽のほっぺたを柔らかくつねりながら、
 ――どうして、おまえは、
小さく首を傾げて、
 ――そんな中途半端なんだろうね?
神楽によく似たかたちのくちびるを、片端だけ歪めて、
 ――ほんとに……なの?
神楽が知らないことばを聞き取れないくらい低い声でつぶやいた。
 神威の手がすっとすべって、神楽のおなかにぺたっと冷たい手を置いた。
作品名:にいちゃんが、すき 作家名:松**