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4にんとひとりのおとこのこ

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おとこのこが 4にん せんろのうえを あるいてる……



「グリーン……」

シロガネ山の風は強い。ただでさえ突き刺すような寒さが、風にあおられ最早ただの暴力だ。
こいつ、本当なんでこんなところにいんだよ……。
その上、不便も多かろうとわざわざ来てやった友人にいきなりバトルをけしかけて、しまいにゃこの一言だ。

「おまえなんか弱くなった?」

「なっ……!」
「おれ、まだピカチュウしか出してない。昔はもっと競ってた気がするんだけど」
相変わらず表情の読めない奴だが、どうも本気で不思議がってやがるな。
「……あのなぁ、環境の問題だ!こんなもん、普通にハンデじゃねえか!」
「何言ってるんだ。悪環境は同様だろ」
「お前らは慣れがあるだろ!こっちは初登頂だっつの」
まさか山の上というだけでこんなに厳しい環境だとは思わなかった。気候もそうだが、まず圧倒的に酸素が少ないのがわかる。酸素の不足は運動能力の低下を招き、思考も鈍らせる。降り積もる雪も足をもつれさせ更に体の自由を封じる。
こんな環境で地上と変わらぬ動きを見せるあいつのポケモンのほうが、よっぽど不思議だよ、おれは。
「カントー最強ジムリーダーが、環境ごときで文句言うなよ」
ここで初めてわかりやすい表情を見せてくる。にやりと効果音が聞こえるようななんとも嫌味な笑顔だ。3年たってもこういうところは、本当全然変わってない奴だ。

3年、か。


「なあ、レッド」
「ん、何?」
「お前、いつまでこんなとこにいる気だ?」

レッドが消息を絶って、驚く人間はあまりいなかった。そりゃ心配する奴はいたが(なんせ本人の気の至らないところで、随分いろんな人に気に入られてたからな)、元来が自由なんだ、旅の延長なのだろうと思われたようだった。
けれど、あの人はどう思ったのだろう。

「お前、旅に出てから……だから5年近くか、一度も家に帰ってないんだろ?いい加減……」
「出るよ」
「……は?」
「だから、山。そろそろ出ようと思ってたんだ」
言い出すが早いか、レッドは突然洞窟の入り口から自分の荷物を引きずり出し、整理を始めた。不要な物の選別でもしているようだ。おい、食いもんのごみを放り捨てるな馬鹿。
いや、そうじゃなくて。確かに帰れとはおれが言い出したんだが。
「な、なんで急に」
「負けたんだ、おれ。ついこの前。ジョウトのトレーナーでさ。赤い服着てて、なんか昔のおれみたいだった」
それは、おれにこいつの居場所を教えてくれたあのトレーナーだろうか。
誰かを思い出させる強い眼差しの、あの少年のことだろうか。
「そんで思ったんだ、おれこんなとこに引きこもって何やってんだろうって。強いトレーナーはまだまだ沢山いるのに、なんて勿体ないことしてたんだろうって。あとさ」
レッドは気恥ずかしそうに笑って言った。

「なんかすごい悔しかった」


いつの間にか荷造りを終えたレッドがおれの前に立っていた。
強い既視感、これはあの日―――チャンピオンとしてのおれが負けたあの日の、あの時のレッドと同じだ。
「というわけで、おれはもーちょっと旅に出てきマス」
「は!?お前なに言って」
「うーん、とりあえずジョウトには一回行っときたい……あと、そうだな、ずっと寒いとこにいたから、どっかあったかい地方にも……」
おれの叫びなどものともせず、レッドは何事か呟きながら迷いのない足取りでザクザクと前を進んでいく。狭いモンスターボールを嫌うあいつのピカチュウも慣れたもので、主のつけた足跡の上を優雅に移動している。
置いていかれているのは、おれだけだ。
「ちょ、ちょっとまて。家には!?おばさんには合わないのかよ!」
とうとう一度も顔を合わせずに、また旅に出てしまったなんて聞いたら、どんな顔をするだろうか。
「グリーン、おれは『おとこのこ』なんだぜ?おとこのこは、いつか旅に出るものなんだよ」


あの日、レッドの家のリビングには耳に良く残る音楽が流れていた。画面には長い線路を歩く4人の少年。
彼らはどこに向かうのだろう。
どうして、目の前のこいつと重なって見えるのか。
一人進んでしまう彼を、だけど寂しげだと思わないのはなぜだろう。
「おれは一人じゃないし、母さんも一人じゃないんだ。母さんは、わかってくれてる」
どんなに遠くにいても、離れていると思わないのは、きっとおれだけじゃないんだ。




「じゃな、グリーン!また帰ってくるから、そしたら今度はマサラで、バトルしようぜ!」




おとこのこが 4にん せんろのうえを あるいてる……
ぼくも もう いかなきゃ!