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キャプテンたるもの文武両道でいたいじゃないか

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思慮が足りなかった、と今更ながらに後悔する。
そうだ、あの円堂の保護者ポジションたる風丸が、本当に申しわけなさそうにこの話を切り出した時点で訝しむべきだったのだ。「悪いな、鬼道」そう云って視線を逸らした、その瞬間に生まれた僅かな違和感を、何故もっと突き止めようとしなかったのか。
あえて云うなれば今が試験週間で部活がなく、だからといって勉強する必要性も感じず、単純に暇だったから。そしてたまには兄らしいことをしようと思っても肝心の妹が「もっとサッカーを勉強したいから」と全く相手をしてくれなかったのも良くない。(そもそもサッカーについて勉強したいのなら、兄である俺に頼ってくれればいいのだ)

カツカツとシャープペンシルの走る音がプレハブの室内に響く。籠もる暑さは窓と扉を開け放つことで僅かに放出させているが、それでも躰を纏うような熱はどうしようもなかった。せめて、とマネージャーが持ってきてくれた電池式の扇風機は順番にしか風を送らない。豪炎寺の髪を僅かに揺らし、ゆっくりと円堂の方へと顔を向けようとしている。どうやらまだ当分はこちらに風はこないらしい。
ふわりと円堂の睨みつけている用紙が浮かぶ。きれいとはお世辞にも云えない文字がぎっしりと並んでいる、その空白がないくらい計算式で埋まった用紙を眺め、俺は本日何回目とも知らないため息を吐き出した。

「円堂」
「えっ、何?またおかしい?」
「どうしてXが2と答が出たのに、Yが割り切れてないんだ」
「割れなかったからだろ。あっ、分数?」
「同じだ」
「えーっ、計算ミス?なんでー?」
「ここ、何故割った」
「数字がでかくなりすぎたから」
「どうして最初に掛けた」
「え、ダメなのか」
「ダメに決まっているだろうが。公式を使え。まずお前は公式を覚えろ」

話はそれからだ、と円堂に教科書を押し付ける。「なんで数学に覚えるものがあるんだよう」とまるでチャーシュー麺を頼んだのにチャーシューが乗っていなかったかのような絶望に満ちた声を上げて円堂はごつんと机に突っ伏したが聞かなかったふりをして今度は円堂の横でシャープペンシルを弄んでいる豪炎寺に目を向ける。
豪炎寺の用紙は円堂とは正反対で真っ白だ。いや、真っ白と云うと語弊がある。ひどく簡潔に、答の欄にしか文字が書いてないのだ。
A.X=25、Y=7526。

「・・・・・・豪炎寺」
「なんだ」
「途中の式がないからさっぱり分からないが・・・・破綻している」
「どこが?」
「とりあえず答が違う」
「・・・・」
「納得できるように説明してやりたいのは山々だがお前が一切の途中計算式を書いてないせいで指摘もできん。お前の脳内までは俺も知らん。推測も憶測も察知も感知もできん。役に立たねーみたいな顔をされても悪いのは俺ではなくてむしろお前だし、そんなことで無能扱いされるのは心外だ・・・し、お前にため息を吐かれる筋合いはないッ!」
「おい鬼道、落ち着けって。豪炎寺は何も云ってないぞ」
「云わなくても分かる!」
「え、鬼道・・・お前やっぱすげえなあ」
「鼻で笑うな豪炎寺ィ!!」
「うるさいぞ、鬼道」
「お前が云うな!」
「鬼道ー、落ち着けよー」
「円堂は黙っていろ!」


ああどうしてあの時、もっと考えて返事をしなかったのだろう。どうしたって悪い予感しかしなかったじゃないか。
進んで面倒事を引き受けている(本人曰わく、誰かがやらなきゃいけないからという諦めの境地からであって決して苦労が好きなわけではない。好きでやっているわけでは、断じて、ない、らしい)風丸から回ってくる事が面倒でないはずがないのだ。
様々な要素が悪く働いてしまった。簡単に云えば運が悪かった。それに尽きる。
こうして起こってしまった惨状に、俺はただ頭を抱えるだけだった。





「諦めたらそこで終わりだぞ、鬼道!がんばろうな、豪炎寺!」
「ああ」

「頼むからもう諦めてくれ。頑張らなくていいから!」




(助けてくれ、風丸・・・・!)