いつもの事
「是非、夏休みの自由研究には師匠の生態調査を!!」
「却下」
即答だった。
「何でですかー!!」
「当たり前だろが!!何とち狂った事言ってんだおめーは!!」
「自由研究とは一番興味がある事を努力して調べるべきものじゃないですか!!」
「やかましい!!てゆーかにじり寄ってくるな!!」
「…師匠はつれないなぁ…」
「こんなの了承する馬鹿がどこにいるってんだよ…」
残念そうに、若干拗ねた様に呟く努力に、洋一は疲れた様に溜息を吐いた。
「いいじゃないですかー。師匠の戦いは記録していますけど、学校に提出できるものではありませんし」
「そりゃラッキーマンのだからな…」
この暑苦しい弟子は、相変わらず生真面目というか、敬愛する師匠の戦い全てを記録するつもりらしい。
最早ライフワークだ。それについてはもう諦めているというか、いつもの事なので洋一も何も言わないが。
「大体僕の生態調査って…そんなもん学校に出してどーすんの…。てゆーか、どう調査するつもりだよお前は」
じろり、と睨まれて、努力が慌てて弁解する。
「いやっ、これを理由に夏休み中ずっと師匠の傍にいようだなんてそんな事はっ!!」
訂正。弁解できていなかった。
寧ろ墓穴を掘る努力である。
「…お前馬鹿だろ」
数秒の沈黙の後、洋一が深く溜息を吐いて、冷えた声で言った。
「うぅ…」
努力は反論できる筈も無く、頭を垂れて呻くのみである。
その状態が暫し続く。
と、そんな努力の耳に呆れた様に吐かれた吐息が届き、
「…まぁ、いいけど」
次いで、諦めを伴った、どこか優しい苦笑を含んだ声が届いた。
思わず顔を上げる努力に、
「来たけりゃ来ればいーだろ。別に追い返したりしねーよ。てゆーか、僕の宿題手伝いに来い」
な?と、笑み。
「しっ………しっしょーーー!!」
「だーっ!!抱きつくんじゃねー!!」
師の言葉に感激して抱きつくのはいつもの事。
大袈裟な程に涙を噴出して、手加減もせず師の身体をぎゅうぎゅう締め付けるのもいつもの事。
そして。
「大好きです!!愛してますしっしょー!!」
「うわあああてめーどさくさに紛れてそーゆー恥ずかしい事言うのやめろっつってんだろー!!」
師への敬愛からくるものか、それともそれ以上の感情からのものなのか。
素直でストレートで正直な努力の愛の告白も、やっぱりいつもの事だった。
それから少々時を経て。
「…まあ、いいんだけどさぁ…。本当に夏休み中ずっと来てたな、お前」
「ご迷惑でしたか?」
「そうは言ってないだろ。…まぁ、宿題もなんとか終わりそうだし…っていうか、宇宙人来すぎだろ…。夏休み半分は潰れたぞ…」
「仕方ありませんよ。さ、ラストスパート頑張りましょう!!」
「へいへい…」
夏休みの最終日。
ぼやきながらも弟子を傍らに。
師の手伝いをしながら幸せそうに。
結局二人で過ごすこの日も、二人にとってはいつもの事で。
「…師匠。これは徹夜ですね」
「うー…しゃーねーわな…」
「…ご褒美下さいね」
「ぐっ………。くそ、わーったよ、このエロジジイが」
「ひどっ!?」
…夏休み中に一体何があったやら。
このやり取りもまた、『いつもの事』の範疇に入った様だった。