革命の余熱
音もなく背後に現れた女性の手はひんやりとしていた。繊細そうな手が首もとに触れる。そのまま詰襟のふちをなぞり、釦に手をかけられた。
「こんにちは古泉くん」
いや、正確にははじめましてかな。にっこりと微笑んで云う女性は色づいた口元と大きく開かれた胸元が印象的だった。
「どちらさまでしょう」
なるべく何事も穏便に。これまでの短い人生で学んだ唯一のことといっても云い。不用意な発言は自滅につながる。
「あなたと、違う世界で出会う者よ」
違う世界。
先ほどの彼の言葉を思い出した。僕と涼宮さんが、彼と共にすごす世界。そこにこの女性もいるというのだろうか。
「古泉くん、学ランも似合うのね」
至近距離で話すので吐息がかかる。ぶちりと音がして釦がちぎられた。一番目の釦をなくした学ランは、自然白いカッターシャツをさらけだす。
するりと彼女の手が滑り込み、くびに回された。
「これはどういうことでしょう?」
彼女はなおも微笑んでいる。
「この世界は消えてなくなるわ。私たちの世界が正しい世界なの。あなたも消えてなくなる」
その前にね。
「練習しておかなければならないの」
何の練習だというのか。見ず知らずの男子高校生のくびに手をかける練習?意外と握力はあるようで、ぎりぎりと力を込められ息苦しくなる。
「あちらの世界で、あなたに手をかける練習」
意識が遠くなる。彼女の目を見る。頬をすべるそれは何だ?
ああ、それは涙じゃないかと気付いたときに視界は暗転。
世界は簡単に握りつぶされてしまった。
「学ランのほうが、あたしすきよ」