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月と甘い涙

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 とろける蜂蜜。頬をつたって、それから?金の瞳は漆黒を映し出し、しょっぱい蜂蜜が零れ落ちて。瞳のうちにあるときは金色に見えるのに、何故離れると透明で透き通ってしまうのだろう?知られたくないから?そこにやさしさが隠れてるって。分からないように?少しずつ魂が溶け出してるって。頤をつたって、それから?何処へ行くのだろう。水のように川になる事は出来ないし、海へ注ぎ込むこともない。変わり行く自然へと作用することの無い雫は、あまりに刹那的な物で。地をほんの少しばかり変色させた後、あとかたも無く消えてしまうのだろう。
 悲しくは無いのかと男は聞いた。エドワードは曖昧に笑った後、首を横に振った。男はそうか、と呟いてコートの裾を翻した。月が照る夜。道無き道。小さな砂粒。奇妙で見慣れぬ木々。エドワードは自分が国中を旅した気でいたが、それは思い違いもいい所だった。砂漠。一面の砂。自分と同じ色が溢れる夜。えもいわれぬ気分がした。あの木から見れば、自分は奇妙な来訪者なのだろう、エドは思った。続く無言。男の影は真っ黒で、それは男の髪の色と同じだった。男の影を踏む。男を殺すことが出来ない代わりに。エドワードは男の後ろを無言で歩きながら、さまざまな事を思い出した。
 幸福な日々。やさしい母親。背の高い弟。純粋な幼馴染。旅の道中であった人々。彼らは皆生きており、その生は何ら疑う余地の無いものだった。幸福な日々は終わりをつげた。向こうからなのか、自分からなのかはいまいち判別出来無かったが。
 一本の木が視界に入る。背の高い木。木の陰に二人が入る。次の瞬間、エドワードは男に駆け寄る。男は僅かに身を屈め、何事かといった風である。エドワードは男のコートの襟を引っ手繰って、男の顔を自分に寄せた。男の目は暗くてよく見えなかった。全然やさしくないキス。幼馴染がしてくれるやさしいキスとは比べ物にならない。男はコートに手を突っ込んでいたので、為されるがままだった。瞬時の出来事。月の光が再び二人を照らし、二人は身を離す。

「どうしたんだ?」
 男は大人特有の冷静さでエドに問う。エドは口を拭って云った。
「大人は子供が泣いているときに、慰めてくれなきゃいけない。」
 男は笑わなかった。エドも笑わなかった。真実だから。泣いている子供にはどうすればよい?引き寄せて、キスして、大好きだよって囁く。飴をあげて、頭を撫でて、やさしさを見せる。大人は自分が子供の頃して貰った事をそのまま子供にしなければならない。




 月は蜂蜜で彩色されているのだろうか?そうでないのなら何故あんなにも綺麗な色なの?きっと月は甘いだろう。子供の匂いのように。月を舐めたら虫歯になるかしらん?誰だって昔大人に尋ねたはずなのに、何故大人になると忘れてしまうのだろう。何故大人になると、キャンディで誤魔化そうとするのだろう。月に伸ばした手に棒付き飴を持たせるのだろう。
 とろけた夢。叶わなかった恋。皆誰かが持っていってしまった。大人になる代価に。きっと子供は皆錬金術師だ。けれど可哀想に、大人になる代価にその能力を持っていかれてしまう。けれどこの金色の子供は、子供で、錬金術師だ。この子は大人になれるのか知らん、男は黒い瞳の先で思った。結末は知らない。男は大人で、錬金術師だったから。
 砂漠の旅。何処かにいるキャラバン。そんなのとは関係なく、二人は歩を進める。錬金術師って何か知ってる?魔法使いなんかじゃない。そんな非科学的なものを信じてる限り錬金術師にはなれないよ、君。真実に一番近いものだ。そう、二人は探している。真実を。何色かも分からないような真実を。





作品名:月と甘い涙 作家名:おねずみ