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【CITY福岡】please sweets【新刊サンプル】

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古泉一樹には密かな趣味というものがある。
それは大方の人間には知られないよう振る舞うべきもので、『古泉一樹』という人間のイメージを維持するためには必要なことであった。
なお、それを隠すこと自体に古泉自身に否やは無く、むしろ自発的ですらある。
というのも彼の年齢と性別にしてそれを知られる、ということはいささか気恥ずかしく、イメージ云々よりも古泉自身のプライドによってそれは密かなまま、となっている。
だが、そんな彼の秘密を知っている人間は数人ほどおり、それは彼の所属する『機関』と言う名を持つ組織の人間数人。
そしてソコとは別の位置にいる者が一人。
できればその者にも知られないことがベストであったのだろうが、色々あってバレてしまったのだから仕方ない。
何故バレてしまったのかというと、実はその者も古泉と同じ趣味を持っていたのだ。
偶然と小さなきっかけにより、同じ趣味を持つことを知った二人は、共に秘密を守り、共有し、また協力し合うことを否やと言うことなど決してなかった。

『甘いもの』が好き。

それが二人の共通の趣味であった。





「はぁー・・・うまいなやっぱ」
「ですねぇ。森さんに改めてお礼を言わないといけませんね」
「全くだ。俺からもありがとうございました、って伝えといてくれよ」
「必ず」

また一口、ぱくりとケーキを頬張ると、二人揃ってへらりと表情が崩れた。

二人の前に置かれた皿には、沢山のフルーツがこぼれんばかりに乗せられたケーキがあった。
フルーツの下には真っ白な生クリームと生成り色をしたふわふわのスポンジが層を成し、真ん中のクリームの層にはスライスした苺の鮮やかな赤が覗いている。
そのカット断面を見るだけでも華やかな美しさを見せるとともに、ケーキ自体の味の良さも更に高めているよう感じられた。

「なかなかこういう本格的なケーキとか買いに行きにくいよな」

ケーキの味を噛みしめて堪能しながらも、キョンの表情がわずかに落胆の色を見せていたのは、こんなにおいしいケーキもそう頻繁に購入する事が叶わないからだ。

「大抵のケーキショップは女性をターゲットにしていますからね。女性の好みそうな外観はやはり僕たちには敷居が高すぎます」
「デパートとかもなぁ、店が固まってるせいで男には行きづらい空間だよな」

甘味と言えば女性のイメージが強く、また実際に甘味を好むのも女性に多い傾向故、店側もその主要たる購入者層に合わせた雰囲気をつくる。
しかし、そのせいでキョンや古泉のような一般的には甘味から遠いと思われる層の者には非常に踏み込むことが難しい場所となってしまっている。
実際に好まない者にはそれで全く影響の無いことだが、甘いケーキなどを好む二人にとってはゆゆしき問題ですらあった。

「僕らにとってせいぜいが、普段行かないコンビニでこっそり買ってくるぐらい、ですね。近所では顔が覚えられてしまうし、知り合いに見つかる可能性もありますし」

知り合いに見つかり茶化されるだけならまだしも、彼らの場合にはそれ以上に大変な問題を抱えているがため、この秘密はできうる限り、知られてはならないことである。

「ハルヒにバレてみろ。あいつこれでもかってぐらい腹抱えて笑うぞ」
「僕は涼宮さんに失望されないかが心配です」

世界を変えることのできる力を持つ、涼宮ハルヒという彼らの同級生にして所属するSOS団なる団の団長でもある彼女にこそ、決して知られてはならないことだ。
古泉一樹という人間のイメージは涼宮ハルヒに接する上で必要なもので、それを崩した際の反応いかんによっては世界になにかしらの影響を与えかねない。

「おまえは別に違和感無いように思うんだがな」
「ご冗談を」

キョンの言うように、ハルヒが納得して特に何も起こらない可能性も考えられるが、最悪の事態を想定すれば、現状維持が最も妥当と言えるだろう。
苦笑しながら古泉は食べ終わったケーキの銀紙を丁寧に小さく折り畳むと、「ごちそうさまでした」とこれまた丁寧に手を合わせた。

「ま、確かにおまえが甘いもの好き、って初めて聞いた時は驚いたけどな。似合わないわけじゃないんだが、やっぱり男は甘いものは好まないっていう固定観念があるんだよな」
「ふふっ、あなた自身がかなりの甘味好きであるのに?」
「固定観念があるからこそ隠してたんだよ」
「まぁ、僕もそうなんですけどね。でもあなたも好きだと知ったときは、失礼ですがかなり驚きましたよ。自分の耳を疑ったほど」
「バレないように気をつけてたからな。外でも家でも滅多に食べなかったし」
「妹さんをカモフラージュに買ったりは?」
「アイツは容赦なく食うからんなことできん。つか、家で食えない原因はむしろアイツだ。なんでかすぐに嗅ぎ付けてきやがるから落ち着いてまともに食えねーよ」
「大変ですね」
「まったくだ。ん、おい、古泉。口の横、クリームついてるぞ」
「え、ああ、すみません。・・・あれ」
「違う、そっちじゃなくて」



続きは本で。