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ブラックブラックじゃなくて良かった

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 香水の匂いがするかな、なんて思ってたらその予想は外れてグリーンガムの匂いがした。なに。仁王と顔を近づけたときの話だ。俺は夏休みの宿題の読書感想文の本を探す為大学の方の図書館へ行った。夏休みなのに勉強熱心な大学生がちらほら見えた。そのなかによく見知った銀色の髪が見えて、後ろからそおっと近づくとやっぱり仁王だった。
「何してんの?」
大きな声は出せないから、出来るだけ顔をよせて、耳の後ろ側で囁くように尋ねた。これにビビって仁王が大声出したら面白いんだけどなーと思ったけど、そこはやっぱり仁王で、くたびれた声を上げながら俺のほうを見た。
「アラ、丸井くん」
斜めの角度から見る仁王の顔は、大人びていて、ここは大学の図書館だというのに全然違和感が無かった。俺は正反対にモロ中学生で、何故か分からないけどちょっとだけ恥ずかしくなった。
仁王は読みかけの本にしおりをはさんでこちらに向き直った。
「何してんの?」
もう一度問い直す。仁王は表紙が見えるように軽く本を持ち上げて、ひまつぶし、と云った。それからそのまま腕を見遣る。
「もうすぐ練習はじまるよ」
俺は壁に掛けてある大きな時計を見た。あと三十分しかない。三冊分感想文を提出しなくちゃいけないんだけど、まだ二冊しか選んでない。
「その本借りるの?」
「いんや」
「じゃあ、俺に貸して」
「よかよ」
ホレ、と掛け声をかけ仁王は俺の腕の中の二冊の本の上に読みかけの本を置いた。仁王が立ち上がったとき、もう一度グリーンガムの匂いがして、俺は今日まだ一枚もガムを噛んでいない事を思い出した。