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メンソレータムと血の味

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「仁王くんリップもってない?」
しょぼい星しかない夜空を見上げながら問うた。何となく仁王はスースーするリップもってそうだな、と考えながら。案の定放られたリップはメンソレータムの薬用で、丸井はちょっとだけ笑った。
「仁王くんてさー、銀色が似合うね」
起き上がって仁王の元まで歩み寄り、リップクリームを手渡しながら丸井は云った。
「そうかのー?」
「うん、似合うよ。すごく似合う」
まるで此処にはいない人を評価しているような口調で丸井はもう一度云った。
「丸井くんは赤がよう似合っとう」
寝転がっている仁王は丸井の髪を一房掴んだ。柔らかな髪は形をつけた。


寝転がっている仁王に顔を寄せ、丸井は口付けた。仁王は拒まなかった。ゆっくりと押し当てらた唇からはメンソレータムの香りと、血の味がした。
「血の味、した?」
「した」
饒舌だった不機嫌な仁王はいつのまにか姿を消していて、いつものめんどくさそうな仁王になっていた。
「ブンちゃん口までプリプリしとう」
茶化して仁王は云った。丸井は仁王の腹に拳を振り下ろした。仁王は咽たふりをして、両手を上げて降参のポーズをした。
「ハラ減った」
「かえろか」
「うん」
のっそりと仁王が立ち上がる。その姿を見て、無駄に足長い、丸井は思った。