爪を切り損ねた。
よそ見をしていて深く入りすぎてしまった刃は、後戻りができない。
諦めて、残った爪を引っ張りぷちんと切り離した。
明日は少し歩きにくくなりそうだとため息をつく。
ずきずきとした痛みと共に、足の親指の爪の端からじわりと血が滲み始めた。
「絆創膏なんてあったかねぇ」
貼るほどの傷ではないが、このまま置いておくと靴を履いた時に当たって痛いだろう。
指先を床に着かないように浮かせながら立ち上がり、部屋を見回す。
どこに救急箱が置いてあるのかわからないが、適当にあたりをつけて棚を開けた。
「何してるんですか」
「旦那、絆創膏持ってる?」
部屋に戻ってきた四木が、片足を上げたまま棚の中を漁る赤林を不審げに見る。
先ほどまで隅で静かに爪を切っていた男が、急に自分の家を堂々漁っていれば何だと思う。
ちらりと浮かせた足を見やると、四木は座っていてくださいと言って棚の前から追い払った。
「無かったら我慢して下さいね」
ソファに座りなおして、自分の親指の様子を眺めていた赤林がにやりと笑った。
きつく傷口を押してみたが、親指の出血はもう大分収まっているようだった。
「大丈夫ですって、明日一日休めば平気」
「この間あれだけ派手に怪我してきても平気だったのに、足の指一本では休むんですか」
「あぁ、思い出した! 寝室の方じゃないですか、救急箱」
「…………」
深くため息をついて救急箱を取りに行った四木を、追いかけるように赤林も後に続いた。
リビングの電気をぱちんと消して。