マイマザー!
ニッコリと微笑んで爆弾発言を投下した実母に、門田は唖然と一瞬固まった。
竜ヶ峰帝人は門田京平の母親だ。
だが戸籍上の母親ではない。
実際、門田の父・十兵衛には娶った妻がいたが、すでに息子が成人した後に交通事故で亡くなっている。門田にとっては育ての母であり、本当の母親も同然の人だった。
竜ヶ峰帝人は門田京平の母親だ。
だが母親らしいことは、あまりされた記憶がない。
初めて会った記憶があるのは、ほんの小さな頃で、門田はこの人を親戚のお姉さんだと思っていたのだ。
それから何度も会っていたが、帝人もあえてそれを否定することはしなかった。
竜ヶ峰帝人は門田京平の母親だ。
だが母親に見えない。
いまだに街を歩いているとナンパされているし、一緒に歩いているとカップルに間違われる。
別にそれが悪いとは思わない。母親が綺麗なのは良いことだ。
ただちょっと気に入らないだけだ。
しかし息子よりも年下にみられる母親ってどうよ。
竜ヶ峰帝人は門田京平の母親だ。
だが何故自分を産んだのか、たまに不思議に思うことがある。
理由を聞いたことがあるが、輝かしい笑顔で「いい年齢した大人が十代の女の子に、どうしても諦められないって縋ってきた姿が非日常だったから」と言われた。
正直、趣味を疑った。
竜ヶ峰帝人は門田京平の母親だ。
だが池袋最大のカラーギャング・ダラーズの創始者で、情報屋でもある。
不特定多数が利用するダラーズ専用のサイト、その掲示板に連日書き込まれる数多の発言から、玉石混淆する情報を拾い集め、独自の視点で事象を構築する。
言いも悪いも、善と悪が混合する自由なコミュニティを帝人は愛していた。人間のなかに醜悪な面があることを理解している帝人は、悪口や批判のレスも不用意に消すことはない。しかし犯罪に直結する書き込みだけは有無を言わさず削除した。
自由な中にも人間としての最低ラインの倫理を、帝人はダラーズに求めたのだ。
竜ヶ峰帝人は門田京平の母親だ。
我が母親ながら、彼女は異質の存在だ。
噂程度に聞いたくらいだが、竜ヶ峰家というのは結構な資産家らしい。
働かなくても一生遊んで暮らせるだけの財産を、この母親はすでに持っているそうだ。
だがそんなことは門田には関係ない。
今の左官業の仕事も気に入っているし、自分の性に合っている。
息子のそんなところが母親は好きらしい。
非日常に産まれながら日常にいようとする姿が。
竜ヶ峰帝人は門田京平の母親だ。
「だって、しばらく京平の日常を見ていたいんだもん」
一言で息子の言葉を封じることなんて、訳無いのである。